第8話 MIORI's REPORT ――19100.06.19――

 赤の光が消えることはなかった。


 もう何連写したかわからない。

 ケンサクさんが無事だといいけど。


「おーい! 僕もタイピンも無事だ!」


 ケンサクさんは凛凛とした顔で私にヤギの角を見せた。自分が握っていたから残ったらしい。意味がわからなかった。


 ケンサクさんは私からスマホを取ると、村長に任務完了を伝えると言って少し離れた場所に移ってスマホを耳に当てていた。


「君! 早く来ないか! 時間はわずかしかないぞ!」


 ケンサクさんがこっちに走って来るので私も走った。


「なんですか?」


「いいから電話を」


 私はケンサクさんからスマホを受け取り耳に当てた。


『もしもし? お姉ちゃん?』


「ルナ? ルナ?」


『1分だけしか話せないらしいから、言いたいこというね。お姉ちゃんが死んだのは私のせい。私がよそ見させたから。だから事故のことは気にしないで。ケンサクさんからヒナタが元気にしてるって聞いたよ。もし会ったらヨリを戻したいって言っといて。お姉ちゃんも元気でね。以上!』


 ケンサクさんはずっとこちらを見ていたけど、私と視線が合うとそらした。


「私は元気だよ。ルナも元気でね! ヒナタ君には言っとくから!」


『うん、あとお父さんもお母さんも元気…………』


 電話が切れた。目から水が出てきた。これは止まりそうもない。


「すまない。僕のスマホは通話無料プランじゃないんだ。ノブさんに強引に切ってもらった」


 ケンサクさん、笑わせようとしてるのかな。

 よくわからないけど、ルナと話せてよかった。


「君はこれからどうする? 勇者村に帰還するか、それとも……」


「残ります! この世界も悪くないっていまは思います。あと私からも村長に報告しておきます。この世界に駐在する大勇者として!」


 ケンサクさんは、うんと頷くとタイピンを私の手に握らせた。


「餞別だ。まがい物だが高価なものだ。お守りにしておきたまえ」


 私は深々と頭を下げて包むようにしてタイピンを胸元に当てた。ケンサクさんはポケットに手を突っ込んでどこかを見ていた。たぶん、私が泣き止むのを待っているのだろう。


 ケンサクさんはたびたび私を見ては優しい目をして微笑んだ。なんだ、単細胞生物じゃないじゃん。アンドロイドでもない。もしかして秘匿されてることって優しさのことだろうか。それは隠すことなのかな。もしそうなら変なことだなと可笑しく思った。


 なかなかいい表情だから写真付きで報告を送ろうかな。新聞には載せられないけど被写体として完璧な表情だ。


 私は水が流れ切った目でケンサクさんの視線の先を追った。黒い鳥たちが魚群のようにくるりと回って横切った。爽風が何度も吹いては頬をなでた。


 私たちは眼下に広がる王都の夜景をずっと眺めていた。(了)

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女性記者は異世界でも躍る――MIORI’s REPORT 佐古涼夏 @sakoryoka

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