第5話 ワシの爪団

 ケンサクさんはアジトの場所を知っているようだった。道々、彼は多くのことを話してくれた。


 友人が竜王討伐の功で王都の秘匿近衛師団長になったはいいが任期が長くて勇者村に戻れていないこと、ヒナタ君がこことは違う異世界で勇者だったこと、そして彼が息を引き取る直前にルナのタイピンを託されたこと。


 すべてを話してくれた。私は泣きたくなる気持ちを抑えて聞いていた。

 ケンサクさんは懐から緑のタイピンを取り出すと、


「これは君がもっているべきものだ」


 と真剣な表情で言った。

 私は受け取りたい衝動をぐっとこらえた。


「それはヒナタ君がケンサクさんに託したものです。受け取れません」


 ケンサクさんは前を向いたまま頷くと、ここがアジトだと指さした。ここって接待を伴う飲食店だよね? 怖いおにいさんとか絶対いるよぅ。


「では、お手並み拝見といこうか。僕は外で待機している」


 店舗は金色を基調にシックなベージュが配分された大きな建物だった。入口の右手に若いイケメンの写真が並んでいる。ここってもしかして……。


 入口うえの大きな看板に思わず後退りした。

 「大往生」との文字がデカデカ横に並んでいる。


 大往生と大王城をかけた?

 ちょっと意味がわかりませんけど。

 突然、地面が揺れ出した。

 私はその場から離れて電信柱にしがみついた。


 え、えっ? なんで店舗が崩れてるの? 

 背後から足音がしたので振り向いた。ケンサクさんだった。


「裏方に徹するつもりだったが、すまない。前世の西暦でいうところの3429年に開発されたステルス戦闘機らしい。偵察でいいとノブさんに言ったんだが、本気でやってしまったようだね」


「ノブさん?」


「ノブユキ。僕の兄だ。スマホで前世と連絡できる」


 はい? 秘匿大勇者の特権なのだろうか。

 崩れた建物から二人が這い出てきた。一人はギンジさんだった。

 もう一人はスキンヘッドの大男だった。ギンジさんは飛ぶように駆けて逃げていった。


「あ、ノブさん? 白髪の老人の両足を切っといてくれ。あと、コルトガバメントを頼むよ」


 えええっ! ケンサクさん怖いんですけど。

 ケンサクさんは這い出た大男を蹴り倒した。

 そしてどこから出てきたのかわからない拳銃を男に向けた。男は地面に何度も頭を叩きつけて命乞いした。


 バーンと重い音が一回鳴った。


「外した。僕は拳銃を使ったことがなくてね。これしか知らないが、いかんせん大口径すぎる。君がこの男を始末してくれ」


 大男の頭部には「京都の大王」とのタトゥーがあった。京都の大王じゃなくて恐怖の大王じゃろがい! 誤字脱字は新聞記者として致命的なミス! 会社の信頼を損ねる!


「おねえさん、すいません! 許してください!」


「は? 訂正記事を書いて、そのうえ始末書を書かされるこっちの身にもなってみろよ!」


 つーか、なにが「おねえさん」だ。ふざけんな。

 私はスマホのカメラを起動し、シャッターボタンを押した。男は細切れの肉塊になって血の海を流した。


「それが君の『強制圧縮』って能力か。すごいな。ファインダー越しに見える対象物を任意に圧縮できるんだろ? それなら大王の恒星移動戦艦もペシャンコじゃないか。僕の出る幕なんてやっぱりなかったな」


 ケンサクさんは満足した様子で歩き出した。ギンジさんのもとに行くつもりだろう。前方から誰かが走って来る音が聞こえた。とても速い足音。ケンサクさんはスマホを耳に当てた。


 私はどんどん近づく足音の恐怖に身を震わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る