第2話 世界の終焉
願ったところで何も起こらない。当たり前だ。前世を悔やむことはないけれど、妹のルナがどうしているのか気になる。彼氏にアレキサンドライトをプレゼントしたいと頑張って働いていたから、僕もできることなら支援してあげたかった。
ヒナタ君だったと思うけれど、口が悪くて第一印象は最悪だった。ルナが彼のことを話しているときは常に目が輝いていた。幸せなんだな、いい人なんだなとわかって、僕は余計な介入はしなかった。
ルナはアレキサンドライトをネクタイピンに加工したいと言っていた。どだい無理なことはわかっていたけど止めたりはしなかった。僕は宝石に詳しくない。ヒスイより高額なのは確かだろう。いずれにせよ、二人が幸せであってほしい。
灰がテーブルに落ちた。いつまで僕は煙草を吸っているのだろうか。灰皿のなかには8本の吸い殻が転がっている。
《ドアが開きます。ご注意ください》
誰か来たようなので僕は9本目の煙草を揉み消した。姿を見せたのはさきほど1階ですれ違った老人だった。ほかのテーブルに行けばいいのに、彼はわざわざ僕の向かいの椅子に腰かけた。
「あまりに綺麗な方だったので追いかけて来てしまいました」
ちょっと変な人かもしれないけど、そういう人への対応は慣れている。
「よく言われるんですよぉ。ミスSLASHにエントリーしようかなぁ」
作り笑顔が得意なのは芸能人だけじゃない。マスコミだって得意だ。入社時の研修で社会部長から笑顔で話しかけるよう指導された。
「もしかして、報道関係の方ですか?」
今日はパンプスにグレーのスラックス、淡いブルーのブラウスに濃紺のジャケット、いかにもマスコミという出で立ちだから仕方ないかもしれない。僕は、そうですと笑顔を見せてこめかみを押さえた。
1年のうち280日くらい頭が痛いので慣れているけど、いま感じている痛みはいつもより強い気がする。僕は不機嫌だということを示すためにわざと視線を落とした。
「あ、すみません。大勇者様にお会いするとは思わなかったもので。あっしはこの世界の勇者、ギンジでがんす」
あっし? 勇者? で、僕のことを知っている!? しばらく牽制して様子を見よう。
「この世界の勇者様ですか? 僕は新聞記者のミオリといいます」
「かの勇者村から来られた大勇者のミオリ様ですね! 存じているでがんす。しかも40歳! お若い!」
やかましいわ!!
最近、中二病こじらせて「僕っ娘」やってたけど面倒になったわ! 全然若くねえんだよ!
友達のA子、B子、C子、D子、みんな既婚で子持ちだわい! 女性ホルモン減って男性ホルモン優位になっとんじゃい! これ以上イライラさせんな!
「それでギンジさんは私に何のご用ですか?」
「伝えに来ただけでがんす。あと15分もすれば恐怖の大王が空から降臨するでがんす」
「そうなんですね」
荒唐無稽な話だけど、本当だとしたら願ったり叶ったりだ。私は嬉々として煙草を吸うと鼻から煙を噴射した。もう世界が終わるんだから女らしく振る舞う必要なんてない。そもそも私は風呂キャンセル界隈だし、世界が終わるなら入浴しなくていいから大歓迎!
頭痛は治まっていた。私は鼓動の高まりを感じながら世界の終焉を待った。
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