女性記者は異世界でも躍る――MIORI’s REPORT
佐古涼夏
第1話 残念な世界
王立学園第3高校の卒業式を取材している。生徒は退屈そうに俯いていたが、校長やPTA会長の話は本心だと思った。四十路になって概ね世の摂理がわかってきた。
卒業証書授与が始まる。僕は急いで壇上に上がった。テレビカメラマンたちが鬱陶しい。総じてテレビカメラマンは大柄な男性と相場が決まっている。
記者歴が長くなり、神経が図太くなった。大柄な男性に体当たりしてでも写真は絶対に撮る。卒業生代表が登壇すると同時に、僕は素早く校長の右斜め後ろに回った。よかった、テレビカメラは左に行った。僕も映ってしまうけれど、報道陣が映り込んでしまうことなんて日常茶飯事なので気にしない。
校長のおめでとうの一言からシャッターを連写で切る。生徒の顔が写らないよう賞状を受け取って頭を下げている瞬間の写真が欲しい。となると早くから連写しておいたほうがいい。写真の出来は上々だった。代表生徒が降壇した。予定稿は用意してあるから、そこに校長、PTA会長、卒業生答辞の一言を入れるだけ。これで今日の仕事は終わりだ。
エルガーの『威風堂々』が流れるなか、卒業生らが退場していく。この学校は退場でエルガーを使うのかと少し不思議な感じがした。保護者がスマホやハンディカメラで我が子を撮影しているのがみっともない。まばらな拍手で卒業生たちが可哀そうだ。主役は卒業生なのに。日本と全然変わらない。この世界の神は何を考えているのだろう。記事を出稿したら会いに行ってみようかな。取材と称して。
出稿を済ませると神に面会するため神殿へ向かった。まるで役場のような造形に唖然としてしまった。自動ドアを抜けると壁に案内板があった。神の執務室は2階らしい。6階に喫煙室があるのがありがたい。一服してから神に面会することにした。二つ目の自動ドアを開けると様々な窓口があって本当に役場のようだった。が、人はいない。エレベーターのボタンを押し、4階から下がって来ることを示す電子パネルを凝視した。
《ドアが開きます。ご注意ください》
こんな細部まで日本に寄せているのかと閉口した。ドアが開くと、綺麗な白髪に瘦身のいかにも紳士という老人が出てきた。老人は軽く会釈して去っていった。エレベーターに乗り、6階のボタンを押す。監視カメラがないか警戒しながら唇を触っているうち6階に着いた。
目の前に喫煙所があった。というより、灰皿が置かれたテーブルがいくつも配置されていて、このフロア全体が喫煙室のようだった。誰もいないので、すぐそこのテーブルに煙草とライターを置いた。潔癖症ではないけれど、椅子を手でサッと確認してから着席した。
煙草に火をつけて紫煙の行方をぼんやり眺めた。静かで心地よくて天国のようだ。うつらうつらとしていたら、灰皿に手をぶつけてしまった。テーブルに少し灰が飛び散った。灰皿も昔の会社の応接室にあるようなもので、どこまでもこの世界は日本を模倣しているのだなと残念に思った。
どこまでも残念なこの世界。壊れてしまえばいいのにと僕は願った。
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