第7話:来訪者

「とりあえず、これで説明は以上になるわ。分からないところ、ある?」

「……わりぃ。全部だ」

 彼女が小さい頃着ていたという一回り小さい黄色のつなぎを纏い、店員らしくという短絡的な理由で被せられたエプロンをはためかせるノード。頭を掻きながら、申し訳なさそうに答える。

「まあ……まだ一回しか説明してないからね。でももう一度説明してる時間は無いわ。基本的に私はずっと店内にいるから、なんか分からないことあったら聞いて。それと、いきなり人と話すってのは難しいだろうから、接客は私がやるよ。ノードは、とりあえずここ数日は警備員みたいな感じでお願い。変な奴が入ってきたら、そいつの動きをマークしとく的な」

「分かった。ぶっ倒すだけなら、すぐ出来る」

「いきなり暴力は振るうのはやめてね、ちゃんと判断して」

「ああ、分かってる。……そういえば、ここってちゃんと電気を使ってるんだな。前の、その、レイルベルの配属先では松明とかランタンを使ってたから」

「言っちゃ悪いけど、レイルベルは貧困層とかが多いのよ。加えて、ビッグコアの電力とか色んな物資とか、国からの供給もおざなりにされがち。そこに比べてネスメイは大分マシだと思う」

 「そうなのか」と簡単に返事をしてから周囲を見渡す。昨日まで他人事でしか無かったこの空間。よく並べられた家電や部品の入った棚。くそ……こんなことになるんだったら、もっと学校で勉強しておくべきだった。どこに何があって、どういう特徴でみたいなのが全く思い出せねぇ。

「あ! あと、言い忘れてた。最後一つ。ここ見て、このカウンターの裏の下側」

 言われて、覗き込んでみる。積まれた荷物。地図。会計の時に使うであろう、この国の通貨が入った木製の箱、などなど色々気になるものはあるが、一番目を引くのはは裏の壁に不自然に取り付けてある謎の赤いボタン。「押してみな」と促され、その通りに手で押し込んでみる。すると、店内中央の床の一部分が突如せり上がった。これは、ノードが最初の修理中で寝かされていた台。その側面には何かダイヤルのようなものが接着しており、彼女が特定の順番でそれを動かすと台の上部が開き、中から出荷時の木箱に包まれた一体のライクアが出てきた。

「一応、うちはライクアも取り扱ってるんだ。みんな地下の部屋に格納しててね。ダイヤルの合わせる数字を変えれば、ここに出てくるライクアの種類もまた変わる。……ってごめん、やっぱりこういうのあんたは嫌だよね」

「まあ……そうだな。見ていて、気持ちいいものじゃない。でも、なんでわざわざこんなまどろっこしい仕組みを使っているんだ?」

「なるべく信頼出来る人にだけ、売るようにしてるの。常連さんとか、ライクアをちゃんと大切に扱ってくれそうな人。ずっと店に野晒しにしておくと、いわゆるあんまりライクアに対して好意的では無い人の目の敵にされてしまうことが多いし、そういう人に買われた後って大体無下に使われちゃうから。だから、さっき言った信頼出来る人が来た時だけこのボタンを押して売り場を見せるって感じにしてる」

「買う人はいるのか?」

「細やかだけど、需要は確かにある。来るお客さんの中には、体が悪くてライクアが無いと生活が出来ないって人もいたりするの。私は、そういう人になるべく優先的に彼らが行き渡るようにしたいと思ってる。まあこれも結局、人間優先の考えなんだろうけどね」

 アルラは静かに台の開いた扉を閉じ、カウンター裏のボタンを押した。即座にその台は地下に引っ込み、目の前の景色は再び平坦な床へと戻る。こちらに帰ってきた彼女は、片手に何か見慣れない物体を持っており、そのまま彼の前でそれを掲げた。

「ここまでの話を踏まえて、だ。あんたには少しお化粧をしてもらう」

 掲げられていたのは、いわゆるパウダーファンデーションのケースだった。彼女がそれを開け、中のパフを取り出す。

「化粧?」

「この薄紅色の粉を、今唯一肌が外に出ている顔に塗るの。そうして、ライクアであることを象徴するその白い肌を隠す。屈辱だろうけど、あんたの身を守るためには必要のことなの」

「……人間に擬態するってことか。自分で配属してくれとは言ったものの、どうもライクアはよほど社会から歓迎されてねぇみたいだな」

「万が一、だよ。本当は私も、こんなことしたくない。けど、あんたが見ず知らずの者にまた無差別に傷つけられてしまう方が私はもっと嫌。だから、」

「分かった。お前がそう言うなら、受け入れる。塗ってくれ」

 彼女は「ありがとう」とすぐに空気に溶けてしまうような声で呟くと、ファンデーションにパフを静かに押し付ける。そして、彼の顔にそれを優しく当てがう。ノードも別に感触自体は不快ではなかった。ただそこに付け足された意味が、少々自分の中で大きな意味を持っていただけで。全体に薄く塗られ、色が広がっていく。白色の部分は隠れつつあるが、層が薄いと顔を流れている青い光がどうしても漏れてしまうため、アルラは何度も何度も繰り返し、彼の顔をパフ越しに撫でる。お互いが無言の状態のまま、作業は佳境を迎え始めていた。

「いつか、こんなことしなくても良いようになればな」

「本当にね」

 開店の時間は、刻一刻と近づきつつある。


 シャッターが開けられ、いわゆる太陽光ってものをノードは初めて全身で感じることになった。テレビの画面に反射して見える自分の顔は、流石に不自然と思えるほど厚塗りされた薄紅色の粉で埋まっている。本当にこれでバレないのだろうか。不安を頭によぎらせながら店の奥で手を前に組み、ひたすら客が来るのを待つ。アルラは店内をほっつき歩くと同時に、はたきで電化製品の埃を取っている。知らない鼻歌を歌い、黄色いつなぎのポケットに入れていた手を外に出して、あくびを一つ。初めての客がいつ来るか、と自然と体が強張るノードに対して、アルラは思っていたよりも呑気だった。

 その理由は、その日の末に分かった。結局、今日訪れた客は全員含めてわずか五人。いずれも常連さんでは無かったようで、別にノードがいることに目を暮れず、ただ数分店内を見たら帰っていく者達ばかりであった。最初は口を固く閉ざし、なるべくライクアだとバレない振る舞いを……なんて思っていたが、そもそも店主のアルラと喋るような人すら一人もおらず、なんだか拍子抜けした。あっという間に外は暗闇。月明かりが差し込む中、二人は先ほど開けたかと思えるシャッターをもう閉めてしまった。

「なあ。いつもこんなんなのか? 正直俺、どんな奴が来るんだろうって緊張してたんだけど」

「まあ、ね〜。電化製品ってそもそも、そんな頻繁に買い替えるもんじゃないし。ビッグコアから供給される電気でも、十分事足りてるって人もいるからさ」

「これじゃあ人間を知るのなんて、大分時間かかりそうだな……」

「まだ一日しか経ってないんだから。千里の道も一歩から、って言うでしょ。ほら、今日はもうおしまい」

 手をパンパンと小気味よく叩き、アルラは店内の電気を消す。二人でカウンター裏の扉を通って倉庫内に入ると、ほとんど暗闇の中、彼女は手で壁を這うようにして何らかのスイッチを押す。駆動音と共に平坦だった床が開く。現れたのは、地下室へ続く階段だった。なるほど、朝はここから上ってきたのか。気付き損ねていた事実を思い返し、遅れて勝手に自分の中で腹落ちさせた。二人はそのまま地下室へと降りる。

「徹夜明けで疲れたでしょ? このベッド、あんたに貸してあげるから、今日はそこで休みなさい」

「え、ありがとう。だけど、アルラはじゃあどこで寝るんだ?」

「私は、この地面に布団敷いて寝るわよ」

 ノードはその瞬間、少し目を細めて彼女に視線を送る。

「なんか、ちょっと俺を気遣いすぎてないか……? 大切に扱ってくれるのは、そりゃありがたいんだが……。なんだか申し訳なくなるというか、だってここお前の家だろ」

「いや、まあそう……だけど。別に私は床で寝ても平気だし。あと……人間をぶっ殺すとか言っているような奴を床で寝させたら何されるか分かんないじゃん。だから、あんたこそ気にしなくていいって……!」

 ベッドの下にある棚から薄っぺらい布団を全身の力を使って引っ張り出し、彼女はそれを床へと引く。そして机の上に乗っているガジェットの幾らかをかき集め、枕の位置にそれらをばら撒くと、何の変哲もないかのようにその継ぎ接ぎだらけの布団に寝転んだ。また一つ、あくび。頭を動かしてツインテールを床で潰しながら、彼女は机の下に置いてある白いコンテナを指で指す。それは先日の戦いで潰れてしまって、見るも無惨な姿になっている、プルの簡易的蓄電装置だった。

「私は、それを直してから寝るよ。あんたもお構いなく〜」

 すると、ノードはベッドにかけてある布団、枕を持ち上げ、それを彼女の布団の横に敷く。呆気に取られた彼女の目を見て、彼は言う。

「俺も、布団で寝る。平等にだ、平等」

「え……? 良い……けど。この床、思ったより凄い硬いぞ。無理して寝ようとしたら多分、あんた後悔するよ?」

「これぐらいどうってことない」

 そのまま、勢いで彼は床に敷いた布団に寝転ぶ。だが、その瞬間。あまりにも薄い布団を貫通して、床と肌がぶつかる硬質的な音が自分の中に響くのが分かった。痛てぇ。寝ているだけなのに、石造りの床にぶん殴られているような感覚だ。それでも、一度言ったことは曲げられない。何せ、自分だけ優先されるのもやはりなんだか腑に落ちないからである。必死に全身を襲う痛みに耐えるため、枕に強く頭を押し付け、なんとか眠りに入ろうと意識を無理やり落とすことに集中し続けた。

 数時間が経ったと思われる頃、ノードは思わず口から言葉を溢す。

「硬すぎる……」

「だから言ったでしょ……さっさとベッドで寝なさいよ。そっちの方がよっぽどあんたの肌にも合ってると思うわ」

 横であぐらをかきながら、コンテナのネジをドライバーで締めているアルラが反応する。ノードは突然起き上がり、彼女の方に体を向けて言う。

「……分かったぞ! この二人でベッドで寝ればいいんだ!」

「は。はぁ!?」

 彼女は驚いてドライバーを落とす。金属音が地下室にほんの少し響く。

「そうすれば睡眠の質も落ちずに済むし、それぞれの力関係に差もつかない。お互いが徳をして、お互いの名誉も傷つかない。名案だ。なあ、そうしよう」

「い、いや無理無理無理! 絶対嫌!」

「なんでだよ! ライクアに近づくのが嫌なのか…?」

「そういうわけじゃない! そういうわけじゃないけど……! いや、ああああ無理! だからあんた寝ていいって別にベッドで! 私はここで寝るから!」

「それじゃだめだ! お前を無下に扱ったら、それは結局人間がライクアにしてることと同じになる! 俺はそういう奴らと一緒になりたくない。だからなるべく、俺もお前も種族でなんか区別したくないんだよ!」

「うん、あんたの考えることはよ〜く分かった。でも一緒にベッドに寝るのは、ちょっと私無理! これはライクアだからとかじゃなくて……その、とりあえず無理なの!」

「じゃあ、お前の布団と俺の布団を合わせて一つの布団で寝るのは、」

「それって実質的に一緒じゃん! 無理!」

 言い合いの末、結局二人はそのまま別々の布団で寝ることになった。一度硬いと思えた床も時間が経てばほんの少しだが馴染んできた感覚があり、段々体が慣れてくる。その次の日も起きて、数人の客を相手する彼女を見て、またここに帰ってきて眠る。起きて、店内に佇み、眠る。そんな循環的な生活をしているうちに、不思議と五日が経った頃には熟睡出来るようになっていた。考えてみれば、前の配属先では寝る体勢すらも許されず、ずっとコードという鎖に繋がれて座りっぱなしだったのだ。大分改善された方だろう。そう思って今日も起き上がり、黄色のつなぎを着て、上からエプロンをかけ、顔にパフを塗る。二人でシャッターを開け、いつものように店奥にノードは立ち尽くす。また単調な一日が始まるのだという思いを胸にしながら、彼は顔を上げる。目に入ったカレンダー。丁度、今日は配属を始めてから一週間が経った日だった。その日の夕方。とある客が、電気屋に訪れた。


 店の前に佇む人影が店内に滑らかに入ってくる。この時間帯に来る客は、意外と珍しい。萌える夕焼けの橙色の陽光で、黒い影となって見えなくなっていた全身が、天井の人工的な照明で照らされて露わになる。やってきたのは、ノードよりも体躯の小さい老婆だった。白い絹の衣に包まれ、朗らかな表情を浮かべている。その背中には花柄の布に包まれた自分の身長よりも大きい箱を背負った状態だった。

「……いらっしゃいませ」

 ノードの放った形式的な挨拶に、彼女は笑顔で頭を下げた。そして周囲を見渡した後、一度首を傾げる。彼女は小さな歩幅で進み出し、ノードの方へと向かってきていた。彼はその事実に薄々勘付きながらも、初対面の人間ということで年齢関係なく心を少し構える。また、ここまで近づいてきた人間もいないため、改めて自分がライクアだとバレないか不安を巡らせてしまう。心配になって顔を触っていると、気づいたら目の前まで来た彼女は、柔らかく彼に語りかけた。

「あなた、新人の店員さん?」

「あ、えぇ、まぁ」

「そうかそうか。見たことなかったもんでね。で、いきなりで申し訳ないんだけど、今日アルラちゃんっているかい? あの子に、頼みたいことがあってねぇ」

 遅れて、ノードも周囲を見回す。確かに店内にアルラの姿が無い。「ちょっと待ってて……ください」と彼は言って、倉庫に入る。そこにも彼女はいない。ボタンを押して階段を出現させ、地下室に向かって呼びかける。

「アルラ! お客さん、なんか木箱を背負ったおばあちゃんがお前に頼みがあるって」

「シルバさんか。はいはーい。ちょっと待ってね、今すぐ行く」

 言葉通り彼女はすぐに階段を駆け上がってきた。扉を開け、二人は店内に戻る。シルバは彼女を見た途端、また嬉しそうに綻んでいた。

「あー、アルラちゃん。お世話になってるわ」

「いやいやいやこちらこそですよ、シルバさん。というか、またわざわざ自分の家から運んできたんですか? 言ってくれれば取りに行くのに」

「そんなの申し訳ないわ。修理してくれるだけで十分なんだから。それじゃあ、よろしくお願いします」

 シルバは背中に背負っていた木箱を下ろし、アルラへと渡した。軽いとは思えない重量を、床に置いた時の音から感じる。倉庫から椅子を持ってきて、シルバに座って待っておくよう促すと、アルラはこの大きな木箱を倉庫へと運んでいく。「一緒に下まで降ろそう」と言われ、二人がそれぞれ端を持ち、階段を慎重に降りていく。朝、布団が敷かれていた床にそれを置くと、彼女は中身を見せてくれた。そこには、新品さながらの様相の一人のライクアが入っていた。

「だいぶ、綺麗に手入れされてたんだな。でもこれ修理する箇所なんてあるか?」

「見てくれはこうだけど、内部はもうほとんど故障寸前なの。あのシルバさんって人はうちの常連の一人でね、ずっと同じライクアを使い続けてるんだ。これまでにもこの子は何十回も修理させてもらってて、日に日に内部状態は悪化してる。だけどそれでもなるべく直せる範囲でって、毎回うちに頼んでくれてるっていうわけ」

「ずっと、同じライクアを……か」

 ノードの呟きが、その狭い部屋にジワっと広がる。彼女はベッドを腕の力で部屋の中心に寄せ、その上に木箱から出したライクアを乗せた。面を上げた状態の溶接マスクを被り、道具箱を近くの椅子の上に置くと、まずは虫眼鏡でそのライクアの全身を確認し始める。次に、うなじにあるコンセントへプラグを挿すと、そのコードの伸びた先のデジタル盤のようなものを目で追った。沢山の数字、把握出来ない用語、それらが入り混じる画面とじっと睨めっこをしてもう一度虫眼鏡を取り出す。一瞬かつ恐らく無意識の動きの流れだったが、彼はそれに彼女の職人技を感じざるを得なかった。彼女は指を一本立てて、こちらに見せてくる。

「恐らく、出来ることの全ては一時間で済むと思う。ある程度早めに終わるようには努力してみるけど。シルバさんにはそう伝えといて」

 そう言うと、彼女は溶接マスクの面を下ろし、淀みなく作業態勢に入った。階段を上りながら、火花を散らす彼女の姿をノードは視界に捉える。そしてそのまま倉庫に着くと、扉を開けて店内へと戻ってきた。座るシルバは、深い息をつきながら店の外の景色を眺めている。

「シルバ、さん」

「あぁ、はい」

「一応一時間で終わるらしい……です」

「あぁそうですか。ありがとうねぇ」

 さりげない会釈をした後、ノードは再び店の奥に戻ってただ立っていた。目の前には、椅子に座るシルバの後ろ姿が見えている。静寂。鳥の鳴き声。店の前の通りを歩いていく、人々の喧騒。彼女が外を見ているからか、なんだかいつもよりそれらの現象がはっきりと知覚できるように感じた。客は、入ってこない。店内には、ノードとシルバが二人、きり。そう意識した途端、彼女がこちら側へゆっくりと振り返った。一拍置いて、口を開く。

「あなたは、いつ頃からここにいらっしゃるんですか?」

 突然の質問に、少し辿々しくなりながらも彼はなるべく冷静を装って答える。

「いっ、一週間前ぐらいからです」

「あら、随分最近なんだねぇ。そりゃ、見たことないわけだ」

 空気が揺れるのと同周期に揺れているように感じられる柔らかな声が、耳を通って頭の中で霧散する。シルバが前へと徐々に向き直ると、横顔だけをこちらに向けて、膝の上に手を乗せた。

「アタシね、自慢じゃないけど結構この電気屋通ってるんだよ。アルラちゃんの親の代からね」

「は、はぁ」

「両親が亡くなってからはあの子が、ずっと一人でこの電気屋を管理してた。まだ年端もいかないお嬢ちゃんだった頃からも、ずっと。それを見てて、アタシ、赤の他人だけど気の毒に思ってたんだ。だからね、今、新しく誰かがあの子の近くにいるっていうのはなんだか嬉しいんだよ」

 彼女はそれから、静かに口を閉ざした。語り草のような口ぶりから放たれる、ほんのりと橙色を纏う余韻。それは確かに、ノードへと届いていた。ずっと一人で生きてきた、アルラ。その姿を近くで見てきた彼女ゆえの言葉。ノードは今まで感じたことのない心の木枯らしが、勢いを増すのを感じる。沈黙の中、今度は彼がそれとなく問うてみた。

「うち、ライクア売ってるの知ってますよね」

「ええ、それはもちろん」

「買い換えようと思えばいつでも出来るのに、なんであなたは一人のライクアを使い続けるんだ」

 彼女は顔を俯かせる。

「どうしても、使い捨てるっていうのがアタシの性には合わないんだよ。あなたぐらいかちょっと上の若い子はみんな、使ってはまた新しいのを買って入れ替えていく。まあ、電池だもの。中のプルがなくなったり壊れたりしちまったら、そりゃあ捨てるんだろうけども。アタシはどうもね……。古い人間だからなのかねぇ、世間の流れについていくのは難しいものだよ」

 打って変わって、酷く萎れたような声が彼女の口から零れ出ていた。ノードは、そんな項垂れる後ろ姿を見て、拳を強く握る。腹から引き摺り出すように呼吸したそれは、確かに自分の声だった。

「間違って、ないと思います」

「え?」

「俺はシルバさんの言うこと、その通りだと思います。ライクアを大切に使い続けるってことは何も悪いことなんかじゃない。寧ろ俺はそれが普通になって欲しいとさえ考えてる。世間がどうであっても、あなたがそういう風な思いでライクアを扱ってくれるなら、今地下で修理されているあの個体も恐らく嬉しいと感じてるはずだ」

「店員さん……」

「だから、」

 ────バン。

 突然勢いよく扉が開いた轟音。体を震わせた二人は、そこに入ってくるやけに整った小綺麗な正装の人間達に目をやる。総勢で五人。その真ん中に立つリーダーと思われる人間の顔、その高い鼻、鋭い目つきにはどこかで見覚えがあった。それはまだ新鮮に覚えている記憶。あの夜、ダオームに捨てられた後、人間達にタコ殴りにされた時に見た────。

「ライクア撤廃派の者だ。今からこの電気屋にあるライクア、全て回収させてもらうぞ」

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