第4話 謎の声、そして、私が魔法?!
《ターヘルアナトミアAiを起動》
(……え?)
《ユーリ・セトのログインを確認しました》
(え、ちょっ、何?)
《音声モードでターヘルアナトミアAiの操作を行います》
「えっ、な、何?」
突然聞こえてきた声に周りをキョロキョロする。
「うるせえぞ、さっきから!先生の邪魔すんじゃねえよ!」
急にブツブツ言い出したり目障りだったのだろう、おじさんにも怒鳴られてしまった。
それにも構わず、無機質な声は続く。
《先程のコンサルトについてお答えします》
(この声、私にしか聞こえないんだ!)
《止血する方法として、結界魔法の行使が望ましいと考えられます。結界魔法を創部にかけることで、創部から流出する血液を遮断、合わせて組織を保護しつつ異物を摘出できます》
(それってつまり、結界魔法を使えば止血しながら柵も抜くことができるってこと?!)
頭に響く声に心の中で問いかける。
《その通りです。ただし、注意点が2つあります》
(注意点?)
《第一に、結界魔法は止血することはできても創部を治癒することはできません。よって、異物を摘出した際は治癒魔法を行使する必要があります》
(な、なるほど。で、2つ目は?)
淡々と答える声に質問を重ねる。
《第二に、結界魔法を行使したまま治癒魔法を行使することはできません。結界魔法をかけると組織同士が遮断された状態になり、創傷治癒が妨害されるためです。そのため、治癒魔法を行使するためには先に結界魔法を解除する必要があります》
要するに結界魔法をかけた状態で治癒魔法はかけられないから、結界魔法を先に解かなければならない、ということか。
(それだと、結界魔法の止血の効力はどうなるの?)
《止血効果がなくなり、再出血します》
(じゃあ、出血を最小限にするためには、結界魔法を解いた瞬間に治癒魔法をかけるしかない、ってこと?!)
《その通りです》
(それって一発勝負じゃん !)
改めてセインの様子を見る。
正直こっちの方が重症なんじゃないかというくらい顔色が悪くなっている。
それに患者の状態を見ると悠長に考えてはいられない。
(一か八か、やるしかない!)
覚悟を決めて、私は柵を引き抜いているセインの手を掴む。
「ユーリさん……?!」
「私が抜きます」
驚くセインを押しのけて、セインが座っていた椅子に腰かけた。
その様子にとうとうおじさんの怒りが頂点に達する。
「はあっ?!さっきから邪魔ばっかりしやがって、この小娘は!このままじゃ、コイツ死んじまうぞ?!それくらい...…」
「死なせません」
喰ってかかろうとするおじさんに、きっぱり言い放つ。
「私が、血を止めながら柵を抜いていきます」
「そんなことが...…できるんですか?!」
目を見開くセインに深く頷いた。
「ええ、大丈夫。私に任せて」
この場でセインが気絶することは患者の死を意味する。
それだけは、絶対に阻止しないと。
(ターヘルアナトミア、だっけ?結界魔法のやり方を教えて!)
《承知しました。魔法の範囲は、異物が刺さっている周囲の組織でよろしいですか?》
(それで、お願いします!)
《認証しました。では、私の後に続けて詠唱してください。》
(はい?詠唱?)
《声に出して唱えることです。》
(いや、知ってるけどさ!)
《光の精霊よ》
(シカト?!……ええい、もうやけくそだ!)
「光の精霊よ!」
《我に御加護を》
「我に御加護を!」
《"ヴェール"》
「"ヴェール"!」
半ばやけっぱちで音声に続いて復唱した。
その瞬間―――
柵を握っていた手のひらから温かいナニカが放出され、創部全体が柔らかな光に覆われたかと思うと、柵の周りからジワジワと滲みだしていた血が完全に止まった。
「よし!」
私はゆっくり柵を抜いていく。
結界が守ってくれているからなのか柵が擦れたときの痛みもないようで、柵を動かしても患者の表情は変わらなかった。
そして柵を完全に抜けきると、
「すごい。本当に血が全く出ていない!」
「すげえ!」
柵が刺さっていた形に沿うように光が傷を覆い、血の一滴も流れてこない。
結界魔法によって、出血は完全に制御されていた。
(うわあ、傷穴からシーツが見えてる……)
まるで傷に柵の型を取った筒をはめ込んだようだ。
(えぇと、ターヘルアナトミア?もしできれば、傷を消毒してから治療したいんだけど……)
抜いた柵は土や汚れが付いていて、明らかに不潔だ。
《でしたら、浄化魔法の行使を提案します》
(浄化魔法?)
《浄化魔とは、対象の汚染や毒などの清浄を行う魔法です》
まさに、この汚染された創部にうってつけだ。
(オッケー!じゃあ早速、それを教えて!)
《かしこまりました。では続けて詠唱して下さい。"光の精霊よ、我に御加護を"》
「光の精霊よ、我に御加護を」
《"パージ"》
「"パージ"!」
すると、またもや柔らかい光が傷口を包み、
「すごい……汚れだけじゃなく、付着していた血液もキレイになった!」
もちろん傷は塞がっていないけど、止血は得られたままで血汚れまでサッパリなくなっていた。
「ありがとうございます、ユーリさん!いったいどんな方法を……!」
「それは後で。ここからが本番だから!」
「どう、いうことですか……?」
出血が治まったことでセインの顔色も大分よくなってきた。
「このままだと傷を塞げないの。私が魔法を解除したら、それと同時に治癒魔法をかけて」
「同時に、ですか?」
「そうしないと、血が一気に噴き出してくるよ!」
『血が噴き出す』という言葉にセインの顔がひきつる。
「……わかりました。やりましょう!」
青い瞳に込められた強い決意を確認し、私とセインは並んで手をかざす。
「3つ数えたら私がまず魔法を解除するから、その瞬間にセインは治癒魔法をかけて」
「はい!」
「いくよ。……3、2、1!」
「光の精霊よ、我に御加護を。”ヒール”!」
合図とともにセインが呪文らしきものを唱えた。
その瞬間、2人の手から強い光が放たれ、部屋の中を埋め尽くす。
結界を傷の中心、体内から徐々に解除し、それを上書きするようにセインの魔力が傷を覆い癒していく。
やがて、光が消えたとき―――
私とセインの前に横たわっていたのは、傷一つない青年だった。
*あとがき
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