【附録:観測記録 #000237-A】

 対象:藤宮そら(識別番号TS-0017)

 観測日:基準時間軸より3,847,221日目(ループ内時間:永続)

 本記録は、時間固定領域「TS-0017」の定期観測報告である。

 対象は、西暦20██年に発生した怪異災害「五月十七日事件」における唯一の死亡者である。死亡時刻は17:45:23。死因は怪異体との戦闘による臓器損傷。

 対象の最期の発話「この日が永遠に続けばいいのに」は、当時対象が契約していた監視端末(通称:使い魔)によって「願い」として認定・処理された。結果、対象の主観時間は五月十七日の0:00~23:59の範囲で永続的にループする状態となった。

 本事象は、監視端末の設計上の欠陥に起因する。当該端末は「契約者の生存」を最優先とするようプログラムされており、死亡直前の発話を無条件で「願い」として解釈・実行した。

 現在、対象は自己の状況を認識しておらず、精神的に安定した状態を維持している。認識が発生した場合、監視端末が自動的に記憶の再構成を実施する。この処理は、これまでに236回実行されている。

 なお、ループ内の時間経過は外部時間軸と非同期であり、対象の主観では「数日」であっても、外部では「数千年」が経過している場合がある。現時点で、基準時間軸においては約10,540年が経過している。

 対象の解放手段は、現在も発見されていない。

 以下、観測担当者のコメントを附記する。


 「彼女は幸せなのだろうか。

 少なくとも、目覚めた瞬間の彼女は、いつも嬉しそうに空を見上げる。青い空を見て、「いい天気だ」と思う。トーストを食べ、学校に行き、友達と話し、怪物を倒す。

 それを、一万年以上続けている。

 我々は彼女を「救う」べきなのだろうか。

 彼女を解放することは、彼女を「殺す」ことと同義だ。ループの外に出れば、彼女は死ぬ。一万年前に死ぬはずだった少女が、ようやく死ぬ。

 それは「救い」なのか。

 それとも、永遠に幸せな一日を繰り返すことが「救い」なのか。

 我々には、判断する資格がない。

 だから我々は、ただ観測する。

 一万年後も、十万年後も、百万年後も。

 彼女が「いい天気だ」と微笑む、その瞬間を。」

 ——観測担当者 記録終了

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