卵の中から現れた密室の鍵
天野 純一
第1話 コハルとの出会い
雪がしんしんと降り積もる朝だった。木々は一つ残らず葉を落とし、辺り一面は銀世界。
少女がサイズの合わない
「マジックに興味はありませんか。どなたか……マジックに興味はありませんか」
彼女は右手に一本の針を握っている。こんな森の中で人が集まるわけもないのに。彼女の背後にはふらふらとおぼつかない足跡が続いていた。
僕が静かに近づくと、彼女は顔をこちらに向けた。
「そこに誰かいるのですか。マジックに興味はありませんか」
僕は悟った。この子は視覚を持たないのだと。目が見えない状態で、果てなき森をさまよい続けていたのだと。
「じゃあ、そのマジックというのを見せてくれますか」
僕が優しく頼むと、彼女の顔が輝いた。
「はい、ありがとうございます。ここに一本の針があります」
言うやいなや、彼女は自分の左手に針を突き刺した。
「タネも仕掛けもありません。すごいでしょ?」
僕はいろんな角度から眺めてみたが、本当に突き刺しているようにしか見えなかった。よく見たら少女の左手には小さな穴がたくさん開いている。
僕はしゃがみ込んだ。
「君、本当に手のひらに突き刺してるでしょ。それはマジックとは言わないよ」
「……でもみんなこれでびっくりしてくれて」
僕はそっと小さな体を抱き寄せた。
「もう大丈夫。僕についてきて」
少女は不安と安堵が半分ずつ混ざり合ったような表情でコクリと頷いた。
「——君、名前は?」
「コハル」
これが僕とコハルの出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます