第9話 勧誘

 降伏した山賊たちを自分たちがやられたように縄で手足を縛り、動けないよう拘束した。


 狼男の怪力であれば引き裂くこともできそうだったが、仲間を人質に取られている手前で抵抗する気はないようだった。


「それじゃあ宣言通り貰って行くぞ。」


 山賊たちから奪った食料、着替え、武器、目に付いた雑貨を2人分のリュックに詰め込んだ。

 持ち歩ける限界まで詰めたのでかなりの重量がある。


「あ、あの……杖壊しちゃってごめんなさい……」


「謝って済むなら警察いらないよ!!」


「す、すみません……」


 身動き取れない相手にすら深々と謝罪する青年。


「お前らは警察に捕まる側だろうが……」


「何か言ったかい!?」


「イエナニモー」


「というかお前もだよメガネ!俺のばあちゃんが作ってくれた大切なセーターだったんだぞ!?それをこんなになるまで燃やしあがって、弁償しろ!!!」


「賊のくせにおばあちゃん子かよ、親不孝が……」


 コイツら捕まってる分際でなんて偉そうなんだ。

 というか、ちょっと嬉しそうじゃないか……?


「どうせお前らの能力なんて大したもんじゃねぇ、ハッタリだろ!?俺たちが足引っ張んなかったらガァルさんがブン殴って終わってたんだよ!!」


「やめねぇか、お前ら。俺たちは負けたんだ。」


「ガァルさん、でもよ……」


 盗賊の言葉を遮って淡々と続ける。


「確かにデルシンキが燃えた時、俺があのメガネを殴るか、炎を急いで消していれば勝てたかもしれねぇ。

 それでも能力の正体が分からん以上、そう動いて助かる確証がなかった。

 それどころかアイツが死んだことで『変な力』の解除ができなかったとしたら、デルシンキがあのまま燃え続ける可能性があった。

 俺たちは異界人を知らなかったから、可能性を考慮せざるを得なかった。

 油断した俺のミスだ。」


 俯きつつ、尻尾は地面に向かってダランと垂れ下がる。

 2mを超えているはずの巨体だが、心なしかしょぼくれて見える。


「お前らには悪い事をしたな。申し訳ない。」


「謝って済むレベルじゃなかったぞ……!」


 こちらは誘拐された上に殺されかけたのだ。

 そう易々と許せる気にはならない。


「それでダメ元のつもりではあるんだが、俺たちの仲間にならないか?」


 一応申し訳なさそうな振りはしている。


「絶対断る!!!!!!」


 即答。


「ま、まあ話ぐらいは聞いてあげてもいいんじゃないですか……折角ですし……」


 なんでこんなヤツらの話を、と言いかけた。しかし、この青年は自分を救ってくれた間違いのない恩人だ。


「……正直意味はないと思うが、彼に免じて話だけは聞いてやる。」


 先程と同じく問答をするが、立場は逆転している。


「それじゃあ質問。俺たちを仲間にする目的は?」


「復讐のためだ。」


「具体的な業務内容は?」


「仲間になれば話す。」


「報酬は?」


「メシは保証する。」


「俺たちにとってのメリットは?」


「俺が仲間になる。」


「話にならねぇ!!!!!!!!」


 あまりにブラックな環境に感情が爆発してしまった。


「まず第一に、俺たちはなんも分からねぇ状態でこの世界に飛ばされてんだ!

 そんな状況でいきなり誘拐してきたヤツらの話なんて信用出来るか!!

 目的が復讐で、しかも仲間にならないと業務内容は話せない?

 詐欺師ですらもうちょっとマシだぞ!?」


「……」


 黙り込む山賊たち。


「お前らにも事情がありそうなのは察するけどよぉ、俺たちの方がもっと鬼気迫る特殊な状況なんだワ!」


「……メガネさんの言う通り、僕たちはあなたの仲間にはなれません。ごめんなさい。」


 青年も続く。


「僕もこの方と同じようにいきなり変な世界に飛ばされて困って……

 できるだけ早く家に帰りたいんです。

 家族も心配してるだろうし、やらなきゃいけないことも残してるんです。

 だから──」


「あぁ分かった!分かった!ダメ元だって言ってるだろ?そう気にすんな!」


 一呼吸を置いて続ける。


「それじゃあ仮に、俺たちが元の世界に戻る手がかりを持ってるとしたら──」


「それが一番ないね!お前、自分たちが異界人のこと知らなかったせいで負けたって言ってたじゃねぇか!!!」


「あ。」


 狼男の口が大きく開く。


「「「ガハハハハッ!!」」」


 あまりに不用意だったリーダーに仲間たちが思わず大声を出して笑う。


「ガァルさん、流石にダサいっす!」


「う、うるさい!!」


「本当になんなんだよこいつら……」

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