8. 鶏白湯

 たどり着いたのは、街の公園のように整備された広場だった。アンドロイドの修理に来たついでにラーメンを食べて帰る人が多いと、屋台のおじいさんは言っていた。

「やっぱりおまえのラーメンは美味え。またここで一緒にハンターやるか」

「それはいいが、まさか孫を連れてくるとは」

「自慢の孫なんだ、そりゃ連れてくるさ」

「前に息子連れてきたこともあったな」

「おう。あん時も世話になった」

 そうか、おじいちゃんもここで働いていたんだ。パパもここに来たことがあるんだ。なんて考えながら、僕はラーメンをすする。白く濁ったスープに割り箸を入れると、細い麺が揺れるのが見える。薄く切られた鶏チャーシューはスープをよく吸っていて、口に入れるとじゅわっと鶏出汁が広がった。

「美味しい……!」

理久りくも気に入ったか。あいつ、いい出汁出るんだよ」

「しっかし、あんなでけえの仕留めるとは。大したもんだ」

「だろ? 俺の孫はすげえんだ」

「ち、違うって、僕がすごいんじゃないって」

「おまえから連絡入った時は、やれやれ俺が出動か、なんて思ってたんだが」

 屋台の主のおじいさんは、そう言いながらホゴタを見た。

「アンドロイドもがんばったみたいだな。修理、できるかもしれない」

「ほ、本当に!?」

「部品がありゃな。直すのは俺じゃねえけど。っと、タイミングよく来たぞ」

 おじいさんの視線をたどると、シャッター付き倉庫の方からおばあさんが歩いてくるのが見えた。

「おお、久しぶりだな。相変わらず機械メカいじってんのか」

「久しぶりに来たと思ったら、孫まで。かわいいねえ」

「だろ? 自慢のま」

「お、おじいちゃん……もうそれはいいから」

 おじいさんとおばあさんは、僕に笑顔を向ける。でも、どうやら二人ともすごい人たちらしい。おじいさんは一人で特異巨大化鶏類ジャイアントガルスを倒せる人。おばあさんはアンドロイドの凄腕職人。

 ネギが絡んだ細い麺を口に入れる。ネギはあまり好きじゃないのに、ここのはとても美味しく感じる。少しだけ刺激のある香りやシャキッとした食感が、鶏の濃い風味とよく合っているからかもしれない。

 ラーメンは本当に美味しくて、僕は珍しくおかわりしてしまった。

「どうせ俺らが持ってきた特異巨大化鶏類ジャイアントガルスで何杯も作れるんだ、たらふく食っとけよ、理久」

「もういいよ、お腹いっぱいだよ」

 そんな僕らの会話で、おじいさんとおばあさんは声を上げて大笑いした。


 ホゴタの左足は、対応部品が見つかったとのことで、おばあさんが直してくれた。

「いいアンドロイドだ。大事にしなよ」

 おばあさんの言葉に、僕は「うん」と大きくうなずく。

「じゃ、行くわ」

「送ってってやろうか? しばらく危険はないと思うが」

「大丈夫だよ、ラーメン食って元気出たから。な、理久?」

 僕はまたうなずいて、おじいさんとおばあさんに「ありがとう」と言った。

 ホゴタも「ありがとうございました」と、深々とお辞儀をしている。

「また来なよ」

「おう。またな」

 おじいちゃんが軽く手を上げたのを合図に、僕らは歩き始めた。

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