6. 特異巨大化鶏類

「おじいちゃん! お金ならホゴタが持ってるから逃げようよ!」

 僕が声をかけても、おじいちゃんは聞いてくれない。高く跳躍したと思うと、大きく広げられた特異巨大化鶏類ジャイアントガルス羽に乗り、すぐに右後方の地面へ着地した。

「ほら、こっちだ!」

 おじいちゃんの姿が見えないからか、特異巨大化鶏類ジャイアントガルスは羽をたたみ、くるりと後ろを向いた。

 それからは、くちばしの攻撃が始まった。おじいちゃんは身軽に飛びながら、全ての攻撃を避けている。

「おじちゃん、すごい!」

 僕がホゴタの後ろから顔を出して見ていると、「おじい様がおっしゃるように『仕留める』のであれば殺さないといけません」とホゴタが言った。

「……殺す、そうだね……」

「命をもらうことになります」

「うん……」

 そうだ。きっと特異巨大化鶏類ジャイアントガルスだって僕たちを殺すつもりで攻撃してきている。わかってはいるけれど――

「うわっ!」

「お、おじいちゃん!?」

「くっそ、やりやがったな!」

 おじいちゃんの着ている防刃チョッキの左脇部分に、大きな裂け目ができているのが見える。

「大丈夫!?」

「何でもねえ、チョッキ切られただけだ。やっぱり年を取ると……やべえ、伏せろ!」

 ホゴタが僕に覆いかぶさった瞬間、空気が壁みたいにものすごい勢いでぶつかってきた。

「こいつは首を横に振ってから羽を広げて高圧羽撃衝フェザーウィングブローを仕掛けてくるんだ。次に来たらまた伏せろよ」

 おそるおそる顔を上げると、特異巨大化鶏類ジャイアントガルスはまだ次の攻撃の準備ができていないようだった。そこにホゴタが立ち上がった。

「私がいきましょう。解析を行い弱点が喉だと判明しました。おじい様の次の攻撃が通る確率は十八パーセントです。私なら七十パーセントの確率です」

「え、ホゴタは非戦闘タイプだよね?」

「はい。戦争では使えないようにできています。戦争利用が可能なアンドロイドの製作は三十年前から国際法で禁じられており各国が国際条約として締結しましたが国連によると現在……」

「勉強はあとでいいんじゃないかな……」

「はい。攻撃することにより理久様を守ることができると判断します」

 ホゴタは僕の方を見ず、特異巨大化鶏類ジャイアントガルスをじっと見つめている。

 するとおじいちゃんが近付いてきて、ホゴタの前に立った。

「ホゴタ、予備のチョッキを」

「はい」

 ホゴタはお腹の引き出しから防刃チョッキを取り出すと、おじいちゃんの横に放った。

「おい、投げんなって」

「理久様のおそばにいてください」

 おじいちゃんのぼやきは気にせず、ホゴタは特異巨大化鶏類ジャイアントガルスを見つめたまま走り出した。ホゴタが走っているところを、僕は初めて見たかもしれない。理屈っぽいけどいつも穏やかで、いると安心できるホゴタが――

 どんどん小さくなっていくホゴタの背中。

 僕は、胸に熱いものが湧いてくるのを感じた。

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