4. エアライダー

 おじいちゃんがパパとママに送ったメッセージは、「理久連れて国立公園でラーメン食べてくる」という文だけだった。なのに、二人ともすぐに許してくれた。

「いくらおじいちゃんとホゴタが一緒だからって……国立公園ってけっこう怖いんだよね?」

「いいんだよ、あいつらはわかってんだから」

「何が?」

「ま、色々あったってことだ」

 おじいちゃんはそう言うと、エアライダーのドアを開けた。シュン、という軽い音がして、「ほら、乗った乗った」と中に押し込まれる。

「このエアライダーじゃ、入口までだな。あとは徒歩だ」

「何で?」

 国立公園には、巨大化した野生動物がいると聞いたことがある。徒歩で大丈夫なんだろうか。

「もし何かに攻撃されたら、この家庭用のだと車体がもたない。エアライダーごと潰されて終わり、という可能性もある」

「えー! わざわざそんなところに!? ラーメンなら美味しいお店いくらでもあるよ!?」

 車内に僕の叫びが響いている間に、エアライダーは出発した。ひゅん、と浮く時にお腹に少しだけ圧がかかる。

「まあな。でも、おまえの勇気にはあそこのラーメンが必要だ。なあ、ホゴタ?」

「私には詳しいことはわかりかねますが推測いたしますとおじい様がおっしゃりたいのは理久様が普段気に病まれているご自身の臆病な性格を……」

「ストップ! それ以上は言うなよ」

 おじいちゃんに言われ、ホゴタは口をつぐんだ。僕を守ってくれるアンドロイドなのに、何だかおじいちゃんの言うことばかり聞いている気がする。

「ま、大丈夫。俺はある程度戦える」

「おじいちゃんが?」

 戦える、って何だろう。特殊な訓練を受けたことがあるんだろうか。確かに百人一首の札を取る速さはすごいけれど。

「いやーしかし腹減ったわ。まだ昼食ってねえしな」

「う、うん」

「あそこのラーメンは美味いんだ。鶏白湯とりぱいたんってやつで、自然公園でしか獲れない鶏を……」

「……う、僕、ちょっと気持ち悪くなってきた……」

「うへ、大丈夫か? ホゴタ、何とかしてやってくれ」

「はい。ではこの薬を。理久様がこれまでに何度か服用されたことのある薬で重大な副作用は見られなかったものです」

「あ、ありがと」

 ホゴタがお腹の引き出しから出してくれた薬を受け取って窓の外を見ると、快晴の空の下を飛ぶエアライダーの影が、思っていたより濃く映っているのが見えた。

「あと一時間ちょいくらいで着くと思うが、休憩も入れるからがんばれよ」

「うん……がんばる」

「水をどうぞ」

「ありがと」

 何だかよくわからないことが多いけれど、おじいちゃんによると、国立公園に行く必要があるらしい。

 ホゴタが差し出してくれたボトルを開けて、僕は水と薬をごくりと飲み込んだ。

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