第9話「夢幻の仮面事件」後編

挿絵画像:https://kakuyomu.jp/users/rikkues/news/822139841709518547


 セラが目を開けると、そこは青々とした森の中だった。

 光の粒を含んだ木漏れ日が降り注ぎ、風が梢を揺らしている。

 鳥の囀りと小川のせせらぎが重なり、森族の故郷そのものの音色が広がっていた。


「ここ……」


 胸に広がるのは懐かしさと安堵。

 その時、前方から朗らかな声が響いた。


「おい、セラ。のろのろ歩いてると置いていくぞ」


 振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

 

 濃い翠色の髪を高い位置で束ねた、快活な瞳の女性。

 腰には白銀のアステリズムが提げられている。

 琥珀色の瞳が、陽光を受けて明るく弾んだ。


「姉さん……リュシエル姉さん」


 セラの目にたちまち涙が滲む。

 森族連合の英雄。今は各地を飛び回り、滅多に顔を見せない憧れの存在。

 その人が昔と変わらぬ笑顔でセラを見ていた。


「今日も訓練か? お前は本当に真面目だな」

「うん……私、姉さんみたいになりたいから」

「ふふ、光栄だな」


 リュシエルは弓を肩に担ぎ、森の奥を顎で示した。


「じゃあ、今日は新しい技を教えてやる。風と一緒に矢を飛ばす方法だ。ついてこい」


 セラの足が一歩だけ前に出る。

 ずっと追いかけてきた背中。幼い頃から憧れ続けてきた姿。


 ――ここにいれば、寂しくない。


 ほんの一瞬だけ、そんな甘い囁きが胸をかすめる。

 だがその瞬間。


「お前、ちょっと顔つき変わったな」


 リュシエルが立ち止まり、振り返った。


「前よりも……何か、強くなったというか」

「え?」

「誰か、守りたい奴でもできたか?」


 その問いにセラの心臓が跳ねる。

 脳裏に浮かぶのは、アッシュの姿。


 己の過去と向き合いながら、それでも前に進もうとする背中。

 ミネットたちを救い出そうと、必死に走り回る横顔。


 あの時差し出されたパンの温かさまで、一緒に思い出される。


 ──私、アッシュさんのこと……。


 認めてしまえば、幻は簡単に彼女を絡め取ってしまうだろう。

 だが同時に、別の光景も浮かんだ。

 廃教会の薄暗い礼拝堂。仮面の男。幻に囚われかけたアッシュの姿。


 ──アッシュさん、今も戦ってる。


 胸がぎゅっと締め付けられる。

 姉と過ごす夢のような時間と、現実の危機。

 どちらもセラにとっては大切なものだ。


「……ごめん、姉さん」


 セラは唇を噛んで一歩後ろに下がった。


「私、行かなきゃ」

「どこへ?」

「守りたい人のところへ」


 その言葉と同時に、森がひび割れるような音を立てる。

 木々が、鳥が、光が、ガラス片のように砕け散った。

 光の粒が舞い上がり、世界が反転する。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃、アッシュは小さな村の中にいた。

 木造の家々が並び、畑には色とりどりの作物が実っている。

 夕陽が空を赤く染め、煙突からは食事の支度の煙が穏やかに立ち上っていた。


 鼻腔をくすぐるのは、懐かしいスープの香り。

 足元には幼い頃履いていたのと同じ擦り切れた靴。


「……ここは」


 言葉が自然に零れる。

 そこへ聞き覚えのある声が背後から飛んできた。


「おかえり、アッシュ」


 振り向くと、そこには父と母がいた。

 温和な顔立ちの父、少し癖のある髪を後ろで束ねた母。

 何度も夢に見た、亡き家族の姿がそこにある。


「今日は遅かったね。畑、手伝ってくれてありがとう」

「あなたの好きなシチューを作っておいたわ。ほら、早く中に入りなさい」


 母が手を差し出してくる。皺の入り方まで、記憶通りの手だ。

 胸が締め付けられる。わかっている。これは幻だ。現実の両親はもういない。


 それでも――

 差し出された手は、あまりにも温かそうに見えた。


「……父さん、母さん」


 震える声が漏れる。


「アッシュ?」


 母が首を傾げて、心配そうに覗き込んでくる。


「どうしたの。そんな顔して」

「ううん、なんでもない」


 アッシュはそう言って、一歩前に出た。

 指先が、母の手に届きそうになる。

 あと少し――そう思ったその刹那。


『アッシュさん』


 澄んだ声がどこからともなく響いた。

 遠いようで、どこまでも近い声。


『アッシュさん、私……あなたと一緒に戦いたいです』


 セラの声だ。

 幻の村にはいないはずの声。

 頭の中で現実の光景が一瞬だけフラッシュバックする。

 廃教会のひんやりとした空気、セラのまっすぐな瞳、ソフィアの冷静な横顔。


 ――俺は今、何をしている。

 答えは一つしかない。


 「戻らなきゃ」


 アッシュは低く呟いた。

 差し出されていた手を、そっと押し返す。


「ごめん。俺……行かなきゃいけないところがある」


 父と母の表情が静かに揺らぐ。


「アッシュ、どこへ行くんだ」

「せっかく帰ってきたのに」


 声色が少しずつ濁っていく。風景がノイズのようにざらつき始めた。

 アッシュは瞳を閉じ、胸の奥にあるものをぎゅっと掴む。


 守りたいと思った横顔。差し出された手。共に剣を振るう仲間たち。

 それは失ったものへの郷愁よりも、今を生きる自分を強く縛り留めるものだった。


「今の俺の居場所は、あいつらと一緒にいる場所だ」


 そう言い切った瞬間、世界が砕けた。

 白い光が走り、幻が粉々に散る。


 ◇ ◇ ◇


 冷えた石床の感触が背中に戻ってきた。

 セラは激しく息をつきながら上半身を起こす。

 視界には廃教会の天井と割れたステンドグラスが見えた。

 

 すぐそばで、アッシュが歯を食いしばるように目を開ける。


「アッシュさん!」

「……セラ。お前が、呼んでくれたのか」


 アッシュは額の汗を拭い、息を整えながら立ち上がる。


「私、自分で幻を破って戻ってきて……。でも、アッシュさんがまだ戻ってなかったから」


 セラは震える手を伸ばし、彼の腕を掴んだ。


「だから、呼びました。戻ってきてって」

「……聞こえたよ」


 アッシュはその手をしっかりと握り返す。


「ありがとう、セラ」


 短い言葉に込められた感謝の重さが、セラの胸を温めた。

 その少し離れた場所で冷気が渦を巻く。


 ソフィアは既に立ち上がり、仮面の人物と対峙していた。

 彼女の周囲には氷の結晶が静かに周回し、蒼い瞳には眩い六芒星の紋が浮かんでいる。


「幻術核は特定したわ」


 ソフィアが冷ややかに告げる。


「アッシュ、援護して」

「ああ」


 アッシュは剣を構え直し、仮面の人物へと駆け出した。

 セラは弓を構える。


「《疾風連矢》!」


 三本の矢が同時に放たれ、仮面の人物の周囲で爆ぜるように炸裂した。

 風の奔流が外套を翻し、一瞬だけ動きを鈍らせる。


「くっ……」


 仮面の人物が後退した瞬間、ソフィアが詠唱を完了させた。


「《氷晶封縛》」


 足元から氷の鎖が伸び上がり、彼の四肢を絡め取る。

 霜が瞬く間に床を這い、逃げ道を塞いだ。


「この程度の鎖で――」


 仮面の人物が魔力を振り絞ろうとした瞬間、アッシュの剣が唸りを上げて振り下ろされる。


 銀の仮面が真っ二つに割れた。

 ガシャン、と甲高い音を立てて床に散る破片。


 露わになった顔は中年の男だった。

 やつれた頬、血走った目。胸元にはところどころ破れた神官服の残骸が見える。


「な……ぜだ。なぜ幻を振り切れる……完璧な夢を見せたはずだ……」


 男は泡を含んだ声で呻いた。

 ソフィアが冷たく見下ろす。


「たしかに、あなたの幻術は精巧だったわ」


 指先で魔力を弾き、周囲に残った夢の残滓を霧散させる。


「でもね、人は幻よりも強いものを持っている」

「強いもの、だと……?」

「今ここで生きて、隣にいる誰かと繋がっている、っていう実感よ」


 ソフィアの蒼い瞳がちらりとアッシュをかすめる。

 アッシュは男を睨みつけ、剣先を地面に下ろした。


「お前のやってることは試練なんかじゃない。ただの逃避だ」

「ぐぅっ……」

「誰かの現実を奪って、幻に閉じ込める。それを救いだなんて、絶対に言わせない」


 アッシュの声には怒りと哀しみが混じっていた。

 ソフィアは氷の鎖をさらに締め上げ、男の動きを完全に封じる。


「視線だ……視線を降ろさねば……」


 男が、かすれた声でうわ言のように呟いた。


「この世界の聖女たちを鎖とし……女神の加護をねじ曲げ……。

 すべてを、恐怖だけの神性に晒さねば……」


 妄信に濁った瞳が、空虚な天井を仰ぐ。


 その言葉にソフィアの表情が一瞬だけ険しくなる。

 何かに思い当たったように、唇がわずかに引き結ばれたが、今は口を開かなかった。


「ここでの仕事はまだ終わりじゃないわ」


 ソフィアは視線を男から引き剥がし、礼拝堂の奥を見据える。


「まだ奥に、彼によって“供物”にされた人たちがいる」


 アッシュは頷き、教会の奥へと視線を向けた。


「捕まっている生徒たちを助けに行こう」


 三人は男をその場に縛りつけたまま、教会の奥へと駆け出した。


 ◇ ◇ ◇


 地下へ続く階段は薄暗く、石壁にはかつての聖句がうっすらと刻まれている。

 足音と衣擦れだけが反響していく。


 その下の広間に足を踏み入れた瞬間、淡い光が彼らを迎えた。


 床一面に描かれた複雑な魔法陣。

 その周囲に五人の生徒が眠るように横たえられている。


「この構成は……」


 ソフィアが短く息を呑んだ。

 蒼い瞳の奥で魔力の流れを追いながら、何かを計算しているようだった。


 聖属性に特有の澄んだ魔力が、細い糸になって天井の闇へと伸びている。

 それはまるで、この場所のずっと上にある“何か”へ視線だけを繋ごうとしているかのようだった。


「ソフィア、何かわかるのか?」


 アッシュが問うと、彼女は一瞬だけ逡巡し――小さく首を振る。


「……詳しい話はあと。今は切るわよ、この術式を」


 声には普段よりわずかに硬さがあった。

 そしてその最も手前には、ミルクティー色の髪を持つ小柄な少女が横たわっている。


「ミネット!」


 セラが駆け寄る。

 白い魔導衣は汚れているが、外傷は見当たらない。

 もふもふの狐耳がかすかに震え、二本の尻尾が弱々しく揺れた。


「み、みなさん……」


 ミネットの瞳がゆっくりと開く。


「助けに……来てくれたんですか……?」

「ああ。もう大丈夫だ」


 アッシュは安堵の息を吐き、剣を鞘に収めた。


「怖かったな。でも、よく耐えた」

「はい……でも、信じてました。きっと誰かが……助けに来てくれるって」


 ミネットは震える手で自身の身体をぎゅっと抱きしめる。

 ソフィアは他の生徒たちの状態も確認し、一人一人に簡単な治癒と目覚めの魔術を施していった。


「命に別状はなさそうね。精神汚染も、今ならまだ修復できる」


 その言葉にアッシュは大きく肩の力を抜いた。

 ソフィアがふと彼の方を向き、そっと肩に手を置く。


「よくやったわ、アッシュ」

「え?」

「あなたが最初に突っ込んでくれたから、私も幻術核に集中できた。あなたの判断は正しかった」


 ソフィアが珍しく柔らかな笑みを浮かべる。

 いつもは冷たい氷の仮面のようだった顔が、今だけは少し崩れていた。

 アッシュも少し照れたように笑う。


「いや……。そもそもソフィアがいなかったら、俺なんかじゃここまでたどり着けなかったよ。ありがとう」

「お互い様、ね」


 ソフィアの頬がほんのりと紅く染まる。

 二人の間に静かな信頼の空気が流れた。


 その光景をセラは少し離れたところから見ていた。

 胸の奥に、小さな棘が刺さったような感覚が生まれる。


 ──ソフィアさんとアッシュさん、息が合ってる。


 戦闘中に見せたあの連携。幻に囚われた後、同時に立ち上がった姿。

 そして今、言葉少なに笑い合う様子。


(私も、あんなふうにアッシュさんと……)


 そこまで考えたところで、セラは慌てて頭を振る。


 「何考えてるの、私」


 けれど胸のざわつきは簡単には消えない。

 そんなセラに、ソフィアが近づいてきた。


「セラ」

「は、はいっ」

「あなたの援護射撃も見事だったわ。その矢がなければ、あの仮面を縛り付ける時間が稼げなかった」


 ソフィアが真っ直ぐに告げる。

 セラは一瞬きょとんとして、それから慌てて笑みを作った。


「あ、ありがとうございます。でも、私なんて……」

「そんなことないよ、セラ」


 アッシュもそちらを向く。


「お前の矢があったから、俺だって踏み込めたんだ。ほんとに助かった」


 すっと、胸の棘が少しだけ溶けた。


「……ありがとうございます、アッシュさん」


 セラは今度こそ心から笑った。


 ◇ ◇ ◇


 その頃、廃教会の外では別の静かな攻防が進んでいた。


 月光に洗われた丘の上。

 ジグラットは仮面の男が残していった荷物を、石段の陰にしゃがみ込んでひとつひとつ確かめていた。


 革袋、古びた聖印、ひびの入った魔具。

 そのすべてに、薄く不快な“祈りの残り香”がこびりついている。


 少し離れた位置ではミレイユが簡易結界装置を起動しながら周囲の見張りと魔導具の安全確認をしていた。

 丘の斜面の途中、フィノは草むらに寝転び、望遠用の小型魔導具で教会の入口を覗いている。


「魔導具と、怪しい書簡を確保しました」


 ミレイユが革袋を差し出す。

 指先には魔力を扱い慣れた職人特有の細かな傷が走っていた。


 ジグラットはそれを受け取り、最も厚みのある一通を抜き出す。

 封蝋には鎖を三重に絡めたような紋章――《聖鎖会》の印が刻まれていた。


「……」


 封を切り、羊皮紙を広げる。

 中には聖句と符号が混ざり合った不気味な文がびっしりと並んでいた。


「軽く暗号化されているな」

「はい。内部でだけ通じる符丁を使っていたようです。いくつかは既に解析済みですが」


 ミレイユがポケットから別紙のメモを取り出して広げる。

 そこには解読済みの短いフレーズが、走り書きで連ねられていた。


『次の標的:聖女候補リアーナ=エルステリア』

『女神アリュエルの“加護の環”の中枢たり得る者は、芽のうちに鎖とせよ』

『聖鎖の儀に備え、純度の高い聖女因子を持つ素体の収集を継続せよ』


 ジグラットの深蒼の瞳が細く冷たくなる。

 

 ――やはり、最終的な狙いはリアーナか。

 妹の名を指先でなぞりながら、彼は静かに息を吐く。


「これでまたセンパイに貸し一つですね〜」


 丘の斜面から、フィノがひょいっと顔だけ覗かせる。

 月明かりを受けた琥珀まじりの瞳が、いたずらっぽく細められた。


「アッシュさんたちが中で大活躍してる間に、こっちはこっちで裏の美味しいとこ、しっかりいただきましたし」

「貸し、ね」


 ジグラットは小さく笑った。


「そうだな。そんなに貸し借りが好きなら、いずれ大きな貸しと共に返してやるさ。ついでに利子もトッピングしてな」

「え、それってもしかしてわたし、なにかすごいやらかしでもすると思われてます?」

「そうなった時に助けてやるという俺からの特別な贔屓だ。ありがたく思っておけ」

「うわぁ……。じゃあ今からいっぱい働いて、利子分も稼いでおかないと……」


 フィノは肩をがくりと落としながらも、その声色にはどこか楽しげな弾みがあった。

 ミレイユはそんな二人のやり取りに苦笑を漏らす。


「お二人とも、雑談はそのくらいで。そろそろ学園側の追手も来ますし、痕跡の処理を急ぎましょう」

「ああ」


 ジグラットは立ち上がり、廃教会の闇を一度だけ振り返る。


「引き上げるぞ。ここから先は、学園の“武勲”の時間だ」

「了解です、殿下」

「ラジャーです、センパイ♪」


 三人は足早に丘を降り、夜の闇へ紛れていった。


 ◇ ◇ ◇


 数日後。

 学園の空気は一転して華やぎに満ちていた。


 連続失踪事件の犯人を突き止め、生徒たちを救出した――その功績が、あっという間に学内を駆け巡ったのだ。

 廊下を歩くアッシュとソフィアの周囲には、自然と人だかりができる。


「アッシュくん、すごかったって聞いたよ!」

「ソフィアさんの魔術、見てみたかったなぁ」

「ミネットさんたちも無事戻ってきてくれてよかった……。本当にありがとう!」


 感謝と称賛の言葉が矢継ぎ早に投げかけられる。

 アッシュは照れくさそうに頭を掻きながらも、一人一人に笑顔で返していた。


「みんなも気をつけろよ。今回はたまたま間に合っただけだから」

「はーい!」


 ソフィアは少し離れたところでそれを見ていたが、ふいに視線に気づいたらしく肩をすくめる。


「……やれやれ。しばらく静かに本も読めないわね、これ」

「お前も英雄扱いだぞ」


 アッシュが笑いかけると、ソフィアはわざとらしく顔をそむけた。


「そんなもの、どうでもいいわ。私はただ、やるべきことをしただけ」


 そう言いながらも、その横顔はどこか悪くなさそうに見えた。

 その隣で、セラは素直に笑っていた。


「でも、よかったですね。本当に」

「ああ」


 アッシュの視線がふとソフィアの方へと流れる。

 その先で、ミネットたちがソフィアにお礼を言いに駆け寄っていた。

 セラはその光景を見ながら、胸の奥にまた小さなざわめきを抱く。


(アッシュさんのこと、やっぱり……気になってるんだ、私)


 ようやくその事実を、自分の中で言葉にできるようになっていた。

 遠くの廊下の陰から、その様子を眺めている影が一つ。


 ジグラットだ。

 腕を組んで無表情で英雄視される勇者候補を見やる。


「勇者の物語は順調に進んでいる、か」


 そして誰にともなく、小さく呟く。


「アッシュの名声は上がり、ソフィアやセラとの絆も深まった」


 それは原作ゲームと大きく変わらない流れ。

 だが、違うものもある。


 ――フィノとセラは、既に自分とも線が繋がっている。


「それでいい」


 ジグラットは踵を返した。


「それもまた、俺の計算通りだ」


 静まり始めた廊下に、彼の足音だけが淡く響く。

 次の一手は既に決めてある。


 運命という名の脚本に、少しずつ書き足していくために。

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