第7話 お金がない

ネカフェのブースに戻ると、レシートみたいに細く折れた財布が、まるで自分の未来を象徴しているかのように軽かった。


「……マジかよ。」

喉の奥が乾いて声が掠れた。


周りのブースからは、ゲームのクリック音や深夜アニメのOPが微かに漏れている。

いつもの“雑音の安心感”が、この瞬間だけは鼓膜を刺すような圧力に変わっていた。


お金がなくなる。


(終わった。今日で、ここにもいられなくなる。)

(どうする?  生活保護……受けるか?)


今朝、ハローワークの担当が優しい目で言ってきた言葉が蘇る。

(家がない状態では紹介できる求人が限られます。まずは生活保護も検討しては?)


その“優しさ”が、今は逆に胸に重くのしかかる。


生活保護を受ければ、一旦は落ち着ける。

布団のある生活に戻れるし、シャワーだって毎日浴びられる。

スマホの充電のためにフードコートを渡り歩く必要もない。


でも――。


(負けじゃないか? 本当にそれでいいのか?

 ただの“社会的戦死”になるだけなんじゃないのか?)


指先が震えた。怒りでも悲しみでもなく、情けなさに近い感情が込み上げる。

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