第5話 腹が減ってしょうがない
ネカフェに戻り、薄暗いブースの天井を見つめる。
「……詰んだな」
つぶやいた声が、やけに静かに響いた。
誰も聞いちゃいないのに、耳が熱くなる。
夜、館内が静まり返った頃。
本来なら晩飯の時間だけど、食えるものは何もない。
だから、俺はシャワーを浴びて布団代わりのリクライニングチェアに沈み込み、
胃の痛みをごまかしながら目を閉じた。
この静けさは、休息じゃない。
明日をどう生きるか分からない人間の静けさだ。
腹が減る。
でも、何か買えばネカフェの代金に影響する。
だから、フードコートで何も頼まずにいるのは気が引けるが――
(ここ、座ってても誰も気にしないよ)
誰が言ったわけでもないけど、そんな気がした。
だから、俺はもう少しだけ居座る。
夕方になると、スマホは満充電。
同時にバッテリーのように、自分の気力がすり減っていくのが分かる。
外に出ると、冬の風が頬を刺した。
日が沈むにつれ、“あの場所”に帰る時間だ。
ネカフェの自動ドアが開いた瞬間、
いつもの暖かい空気がフワッと出迎えてくる。
受付の人が、いつものマニュアル笑顔で言った。
「ナイトパックですか?」
「……はい」
深夜のブースは薄暗いけど、なんだか安心する。
自分の居場所はここにしかない。
それが惨めだと分かっているのに、
人間って不思議なもので“安定している場所”を求めてしまう。
椅子に座り、天井を見上げる。
「……明日は、どこに行こう」
希望じゃない。
ただの確認作業みたいな呟き。
でも、不思議と泣きたくはなかった。
こういう日々にも、ほんの少しだけ慣れてきたからかもしれない。
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