お題44:知らないおじさんから『あなたの影、貸してもらえません?』と頼まれた。

 朝のジョギング中に、前に知らないおじさんが立ちはだかってきた。


「突然で失礼なのですが、あなたの影を貸してもらえません?」

「失礼とか以前に意味がわからないので嫌です」


 彼が不躾に断るのも当然である。影を貸す、とはどういうことなのだろうか。


「じゃあこれで……」

「お待ちください! ほんの、ほんの10分だけでいいんです!」

「更に意味わからなくなったんですけど。影を10分だけ借りるって何なんですか」


 影の貸し借りなんてしたことが無いから、不安でしかない。あとおじさんが必至過ぎて恐怖である。彼の影にしがみついているおじさんの姿は、子供には見せられないだろう。


「本当にちょっとだけでいいんですよ! 後で倍にして返しますんで」

「影がどう倍になるんですか……」

「大きさと濃さが増やせますよ?」

「いらないです」


 金じゃあるまいし、影が倍になったところで不気味でしかないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る