お題43:祖父のひげが突然独立を宣言し、家族会議が緊急招集された。

 ある日突然、祖父のひげがごっそりと抜け落ちた。それだけでなく、一塊になってもぞもぞと動き出した。恐怖である。


「我ラ、独立ヲ宣言ス」


 ひげ達が文字の形に並び、祖父含む家族全員に、そう意思表示をしてきた。


「こわ……」


 家族皆、最初はこの言葉しか出てこなかった。


「で、これどうする?」


 時間をおいて冷静になった父は、家族を集めて会議を始めた。


「ねえお父さん、じいちゃんのひげがどっか行ったところで、別にどうでもよくない?」

「……確かにそうだな」

「ふむ、わしもそろそろ剃ろうと思っていたところじゃしな」

「じゃあ、ほっときましょ」


 僕の言葉に父、母、そして祖父自身も納得した。会議が終わりそうな空気の中、ひげ達はなぜか不満な様子。


「マテ、モットコウ、ナイノカ?」

「え、引きとめてほしいのかこれ」


 未練がましいひげ達に、妹が語り掛けた。

 

「……ねえ。おじいちゃんから生えていないひげってさ、それは果たしてひげと呼べるの?」

「ナ、ナナナナナ」


 妹の一言によって、ひげ達はアイデンティティを失った。そしてただの毛に戻り、あえなく母の掃除機に全て吸い込まれていったのだった。

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