第43話 「最初に外れる」

 それは、決定というほど強いものではなかった。


 だが、偶然でもなかった。


 放課後、行事の準備について話し合うため、クラスの女子数人が自然に集まり、机を寄せて小さな円を作っていた。


 陽も、その少し外側に立っていた。


 呼ばれていないわけではない。


 だが、明確に中に入る理由もなかった。


 「じゃあ、役割分けしよっか」


 誰かがそう言い、作業内容が一つずつ挙げられていく。


 準備係。


 調整係。


 先生との連絡。


 どれも、これまでなら自然に陽が含まれていたものだった。


 だが、その日は違った。


 「これとこれ、私たちでやろう」


 「うん、そっちお願い」


 言葉は軽く、流れもスムーズだ。


 誰も、陽の方を見ない。


 無視ではない。


 確認の必要がない、という扱いだった。


 最後に残った作業を見て、誰かが言った。


 「神代くんは、無理に入らなくていいよ」


 その声には、気遣いがあった。


 拒絶ではない。


 配慮だ。


 「細かい調整とか、苦手そうだし」


 その一言で、場の空気は完全にまとまった。


 誰も反論しない。


 誰も疑問を持たない。


 陽は、その場で初めて、自分が最初に外されたのだと理解した。


 理由は、説明されている。


 線を引く人。


 踏み込まない人。


 問題を起こさない人。


 それらが組み合わさって、選ばれない理由になっている。


 「……分かりました」


 陽はそう答え、一歩下がった。


 誰かが申し訳なさそうな顔をすることもなかった。


 むしろ、空気は少し楽になったように見えた。


 役割が整理され、曖昧さが減ったからだ。


 作業が始まり、陽は指示されたわけでもないのに、近くにあった段ボールをまとめ、机を戻し、周囲の邪魔にならないように動いていた。


 だが、それは「やること」ではなく、「やっても問題ないこと」だった。


 誰も、それを頼んでいない。


 誰も、それを止めない。


 ただ、そこにいる。


 夜、ノートを開いた陽は、今日の出来事を思い返しながら、ゆっくりと書いた。


 【今日、起きたこと】


 ・役割から外された


 ・理由は説明された


 ・誰も困っていない


 少し間を置いて、さらに書き足す。


 ・選ばれなかったことより、自然に成立したことが気になる。


 陽はペンを置き、昼間の光景をもう一度思い返した。


 誰も悪くなかった。


 誰も排除しようとしていなかった。


 ただ、効率が良くなっただけだ。


 だが、その効率の中で、自分は最初に切り離される存在になっていた。


 それは静かで、合理的で、非常に分かりやすい。


 そして一度成立してしまえば、次からは確認すらされなくなる。


 次に起きるのは、この配置が「例外」ではなく、「前提」として扱われる瞬間だ。


 そのとき、陽はもう、ただ黙っているだけではいられなくなる。

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