第24話 「あなたが選んだことにする」
それは、決定ではなく「整理」として始まった。
だから、誰も反対しなかった。
*
翌日、学内ポータルに通知が出た。
【支援体制運用の一部見直しについて】
件名は、やけに事務的だった。
内容は、さらに丁寧だった。
――生徒の主体性を尊重する
――自己決定を促す支援へ移行
――過度な介入を避ける
言葉だけ見れば、
理想的ですらある。
だが、
陽は一文で理解した。
――責任を、返してきた。
*
放課後、椎名に呼ばれた。
場所は、職員室の隅。
人目はあるが、
話の内容は聞こえない距離。
「神代」
「はい」
椎名は、
少し疲れた顔をしていた。
「昨日の面談を受けてね」
「……はい」
「学校としても、
考えたの」
考えた。
「あなたは、
“考えられない”わけじゃない」
「……」
「むしろ、
考えすぎてしまうタイプ」
いつもの評価。
*
「だから」
椎名は、
結論を置く。
「これからは、
あなた自身に、
選択してもらう」
選択。
「ただし」
来た。
「選んだ結果については、
あなた自身が
責任を持つ」
責任。
「それで、
いいわね?」
確認の形をした、
同意要求。
*
「……はい」
陽は、
頷いた。
拒否しない。
反論しない。
ただ、
構造を見たまま、受け取る。
*
その日から、
扱いが変わった。
保護委員は、
距離を取るようになった。
面談は、
週一に戻った。
だが。
「何かあったら、
自己判断で対応してね」
その一言が、
必ず添えられる。
*
昼休み。
真白が、
少し躊躇いながら
声をかけてきた。
「……陽くん」
「なに」
「最近、
自由になった感じするね」
自由。
「……そう見える?」
「うん」
真白は、
安心したように笑う。
「よかった」
「……なにが」
「だって、
もう先生たちも
そこまで心配してないし」
心配してない。
それは、
見放された
という意味でもある。
*
放課後。
篠宮が、
小声で言った。
「来たな」
「……うん」
「一番、
厄介なやつ」
「責任だけ返すやつ」
陽は、
小さく頷いた。
*
夜。
ノートを開く。
【変わったこと】
・監視が減った
・選択が増えた
【変わらないこと】
・評価は続く
・記録は残る
【気づいたこと】
・自由は、免責ではない
・「自己責任」は、
管理の最終形
ページの下に、
静かに書く。
・これは解放じゃない。放流だ。
囲いを外し、
首輪を外し、
だが、
地雷原に押し出す。
事故が起きたら、
言えるように。
――選んだのは、
あなたです。
*
陽は、
ノートを閉じた。
ここから先は、
制度と対峙するのではない。
制度が作った「自由」の中で、
どう壊れるか。
その段階に入った。
次に揺れるのは、
自分か、
それとも――。
もう一人。
真白だ。
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