第19話 私を見くびるな!

 車から降りたアントニオは、外したサングラスを胸元に引っ掛ける。



 私と蓮に向かって拍手をするのだった。



「ご苦労だったな」



 ここは例の廃工場の跡地だ。

 相変わらず埃っぽい。風が吹くと、砂埃が上がる。私は手で口を塞いだ。



「素人にどこまでやれるか不安だったがな。大したもんだな。褒めてやるよ」



 アントニオはタバコに火をつけると、満足げに煙を吐き出す。



 この様子や言い方からすると、リヒトがサイコパスなのを承知していたようだ。



 私たちが殺されても代わりはいくらでもいる、そんな風に考えているのだろう。



 まったく、ムカつく男だ。



 アントニオは意気揚々と続ける。



「親父はこっちの思惑通り、リヒトはホテトルの女と逃げたと思ってる。

 まったくあの色ボケジジィは単純で助かるってもんだ。

 何より、監視役だった芽具路めぐろの野郎は、親父に大目玉を喰らって指を詰められてたよ。

 ザマァねぇぜ」



 あの狐目の男のことを言ってるのだろう。

 同じ組の人間でも、決して一枚岩ではないし、仲良しこよしといったわけでもないらしい。



 親だ兄弟だと仰々しく盃などを交わしているくせに、そこはやはり人間のエゴのぶつかり合いなのだ。



「さて、リヒトの遺体を確認させてもらうとするか」



 アントニオは私たちが乗って来た車のトランクを開ける。



「これはどういうことだ?」



 トランクの中にはリヒトの遺体ではなく、土がついたスコップしか入っていない。



 アントニオは振り返ると、私たちを交互に見る。



「遺体はこっちで処分する。

 だからここに運べって言っておいたはずだぜ。

 まさかこんな簡単なことが覚えられないほどの阿呆ってわけじゃないよな?」



「遺体を渡す前に、確認させてください」



 蓮が一歩前に出る。

 勇敢なのは立派だが、口調を聞く限り、すでに気圧されているのがわかる。



 まあ、ヤクザを前にして平静でいられる方が珍しいか……。



 蓮の喉仏が大きく上下する。



「この『仕事』をうまくやれたら、俺たちは解放してくれるんですよね?」



 アントニオは肩を揺する。

 ただし、今度のは笑っていたわけではないらしい。表現するのなら、やれやれ、といったところか。

 呆れているわけだ。



「そんなことを言ったっけか? 俺には覚えがないな」



「騙したんすか! 俺たちを!」



「人聞きの悪いことを言うなよ。俺は『考えてもいい』って言ったはずだぜ」



「だったら俺たちにも考えがあります」



「このことを親父にタレ込むってか?」



 蓮は言葉を詰まらせる。見事にこちら側の計画を言い当てられたのだ。



「そんなもん知らないって言えば済むことだ。

 親父だってどこの馬の骨とも知らねえガキの戯言なんて、信じるわけがねぇからな」



「だ、だったら、遺体を埋めた場所を警察に言うぞ! そこには──」



 アントニオの手には、タバコの吸い殻が入ったビニール袋が握られていた。



「な、なんで……」



 愕然とする蓮を、アントニオはさも愉快だと言わんばかりに見ながら顎を上げる。



「お前らが乗ってたのはこっちが用意した車だぜ。

 GPSくらい取り付けてるっての。

 お前らが帰った後、掘り起こして遺体は回収させてもらった」



 アントニオは背中に手を回す。



「残念だったな」



 銃が握られていた。

 銃口には筒状のものが取り付けられている。

 ドラマなどで見た記憶を辿る──確か銃声を軽減できるサイレンサーというやつだ。



「か、勘弁してください!」



 蓮は土下座をする。



「俺が働きます! ですから綾だけ助けてやってください!」



「なんだ? 童貞を捧げた女は俺が守るってか?」



 残念だったな、というアントニオの言葉とほぼ同時に、銃から弾丸が放たれる。



 蓮は脳みそをぶちまけて倒れるのだった。



 容赦のないアントニオは、すでに骸と化した遺体に向かって2発3発と立て続けに銃弾を打ち込んでいく。



 アントニオは遺体を足で小突いて死んだのを確認すると、顔を上げた。



「さて、次はお嬢ちゃんの番だ──」

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