第15話 実は使える男!?
もうダメだ……。
頭ではすでに諦めているのに、細胞が反応したといった感じだった。
気がつくと私は力を振り絞り、体を横にしていた。リヒトに背を向けるような格好になる。
わずかに動く手足でなんとかリヒトから離れようともがく。まるでシャクトリムシのようだ。
が、どんなに無様でも、体はまだ死を受け入れてはいないのだった。
「わぁ! お姉さんすごいね! 動けるんだ」
背後で感嘆の声が上がる。
「そういえば、お姉さんはシャンパンを一口くらいしか飲んでなかったもんね。
薬の効きが甘かったんだ。
やっぱり『飲ませる』より『打つ』方が断然効果あるのは間違いないみたいだ。
でも、立ち上がるのは無理みいだね。
じゃ、薬の効き目がなくなる前に注射を打って──」
ガコンッという音と共に、人が倒れる気配があった。
体の自由がきかないため、背後で何が起こっているのかがわからない。
振り返ろうにも、筋肉が強張っていて自由が効かないのだった。
「おい」
男の声だ。
リヒトではない。
「大丈夫か?」
ようやく誰かわかった。蓮だ。
私の正面に回り込んで来る。
捨て猫のような情けない顔をしていた。正直、泣きたいのはこっちだ。
「リ、リヒトは……」
それだけ言うのが精一杯だった。
舌が痺れていて、うまく喋れない。
一瞬、蓮は誰のことだかわからなかったようだ。しばらく戸惑っていたが、やがて「ああ」と、うなずいた。
私の向こう側に視線を向ける。
「たぶん、死んでると思う」
この馬鹿!
リヒトは私たちがこの地獄から抜け出すための唯一の人間だったのに!
コンコン。
ドアがノックされた。
私たちはハッとする。
「どうかしましたか? 何か物音がしたようですが」
狐目の男の声だ。
リヒトが床に倒れたときの音が、外にまで聞こえたのだろう。
「は、運んで……」
私は必死に訴える。
今、ここに踏み込まれたらアウトだ。私たちの命はない。
蓮はうなずくと、私を抱き上げる。
違う!
違う!
違う!
私じゃない!
まずはリヒトを隣の部屋のテラスまで運ぶんだよ!
最悪、私だけが残ったとしても、リヒトを遺体さえ見つからなければいいのだ。
組長のオモチャになるのは嫌だから逃げ出した、とかなんとか言い訳ができる。
それなのにこの馬鹿は、隣の部屋のテラスまでは私を運ぼうとしている。
幅は2メートルほどあるのだろうか。
私をおんぶしたまま、飛び越えるなんて──
全身に寒気が走る。
蓮は空中を飛んだ。
「ヨシ!」
無事に隣の部屋のテラスにたどり着くと、私を優しく下ろす。
「とりあえずここで待ってろ。すぐに戻る」
そう言い残してまた元の部屋に戻ると、言葉通り蓮はすぐに戻って来た。しかもリヒトの遺体を肩に担いでだ。
「俺、清掃のバイトがないときは、
聞いてもいないのに蓮は得意げに語るのだった。
「ちょっと気味悪いだろうが、我慢しろよ」
清掃道具が入れられていた箱の中に、私とリヒトの遺体を放り込む。
私の顔の横には、目を見開き、頭から血を流すリヒトがいるのだった。まだうっすらと体温が残っている気がして気持ちが悪い。
「行くぞ」
頭の上から蓮の声が聞こえると、すぐに廊下の喧騒が耳に入った。
「おい! 何かおかしいぞ! フロントでスペアキーを借りて来い!」
私たちは、狐目の男たちいるのとは反対側にある従業員用のエレベーターに乗り込むのだった。
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