第4話 つまり交換殺人

「今はこれしかないけど……」



 いくぶん冷静さを取り戻した私は、クシャクシャになった1万円札5枚を握りしめた手を、金髪の男に向けて差し出した。



 情けない話、これが今の私に出せる精一杯の金額だ。



 私は矢継ぎ早に続ける。



「残りは、何年かかっても絶対に払う! だからとりあえず今は、これで頼むよ」



 金髪の男は苦々しい表情で、舌打ちをした。



 てっきり「話にならねえよ」と突っぱねられると思っていたが、私の思っていたリアクションではなかった。



「何やってんだよ、そんなモンさっさと引っ込めろ!」



 私は訳が分からず、目の前の人物を見返す。



 要領を得ない私に、金髪の男は苛立ったように「何度も言わせんな」と、再び周辺を警戒する。その後、私に向き直るのだった。



「金はいらないっつってんだよ」



「じゃ、どうすれば……」



 金髪の男の表情が強張る。

 もちろんこれまでもずっと固い表情ではあったが、桁違いに緊張感が増した気がした。



「金は必要ないんだよ。その代わり、アンタにも『仕事』をやってもらう」



「『仕事』ってつまり──」



「殺しだ」



 私は全身を強張らせた。



 それを見た金髪の男は、私が怖気付いたのだと受け取ったらしい。



「忘れろ。今のは俺の独り言だ」



 金髪の男は踵を返し、コンビニの方へと歩き出す。



「待てよ」



 私は咄嗟に血管の浮き出た金髪の男の腕をつかんでいた。



「やる。やるよ! 一体誰を殺せばいいんだ」



「本気か?」



「もちろんだ。こっちだって命がかかってんだ。

 このままじゃ、いずれ私も娘も殺されるんだからな」



 言っておくが、と金髪の男は再び私と正対する。



「後になってやっぱり辞めるってのは通じねえぞ。

 途中でケツを割ってみろ。

 アンタだけじゃなく、アンタの家族や知り合い、それからアンタに少しでも関わりのある人間はすべて探し出して、切り刻まれることになるんだぞ」



「覚悟はできてるよ」



 そもそも私には、引き返す道などないのだ。



 私がうなずくと、金髪の男も決心がついたようだった。

 表情を固くする。

 もしかしたら私よりも、緊張していたのかもしれない。



「いいか? 『そっち』のはこっちで始末する。その代わりアンタにはこっちが指定する『獲物』をってもらう」



「それってつまり『交換殺人』ってことか……」



「ずいぶん詳しいな」



「詳しいわけないだろ。本当かテレビで見たことがあるだけで、実際にやるのは初めてだ」



「そりゃそうか」



 意図せず冗談のような会話になってしまった。金髪の男はフッと口元を緩める。私も頬を持ち上げた。

 緊張のせいで2人とも頭のネジがぶっ飛んでしまい、おかしくなっていたのかもしれない。



 実際、正気ではいられないのも事実だった。



「集合しろ! 現場に行くぞ」



 コンビニの駐車場に停められたワゴン車から声がする。



 ふと見ると、作業員たちはもう乗り込んでいるようだ。どうやら私たちを待っているらしい。



「細かいことはバイトが終わってから話す」


「わかった」



 私たちは暗闇から抜け出すと、コンビニの店内から漏れる光がさす方へと歩き出すのだった。

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