第3話

 私は、より詳細な実験を行うことにした。

 まず、変身前の状態で、左手の人差し指に油性マジックで小さな印をつけた。

 次に、変身した。

 左手を確認した。印はなかった。

 変身を解除した。

 左手を確認した。印は残っていた。

 これは予想通りだった。変身後の体と変身前の体は、別物なのだ。


 次の実験。

 変身後の状態で、左手の人差し指に油性マジックで印をつけた。

 変身を解除した。

 左手を確認した。印はなかった。これも予想通り。

 再び変身した。

 左手を確認した。

 印は——なかった。

 私は混乱した。

 変身後の体が「固定」されているなら、前回の変身時につけた印は残っているはずだ。しかし、印は消えていた。

 つまり、変身後の体は「固定」されているのではない。

 毎回、「新しく作られている」のだ。


 私はミルクに、もう一度質問した。

「変身後の体って、毎回新しく作られるの?」

 ミルクは答えた。

『そうだよ。変身するたびに、最適な状態の体が生成される。だから常に最高のパフォーマンスを発揮できるんだ』

「じゃあ、変身中の体はどうなるの? 変身を解除したとき」

『消えるよ』

「消える?」

『必要なくなったからね。元の体に意識が戻るとき、変身後の体は分解される』

 ミルクは淡々と説明した。

 私は、自分が何か重要なことを見落としているような気がした。


 その夜、私は眠れなかった。

 布団の中で、天井を見つめながら考えた。

 変身するたびに、新しい体が作られる。変身を解除するたびに、その体は消える。

 では、変身中の「私」は、誰なのだろう?

 変身後の体で動いて、考えて、戦って、痛みを感じている「私」は——変身を解除したとき、どこへ行くのだろう?

 「元の体に意識が戻る」とミルクは言った。

 でも、本当にそうなのだろうか?


 私は、ある仮説を立てた。

 仮説:変身後の「私」と、変身前の「私」は、別の存在である。

 変身時、私の意識は新しく作られた体にコピーされる。変身後の「私」は、コピーされた意識で動く。そして変身解除時、変身後の「私」は——体ごと消滅する。

 元の体に「戻る」のではない。元の体にいる「私」が、そのまま継続しているだけだ。変身後の「私」の記憶が、何らかの方法で元の「私」に転送されるのかもしれない。だから、私は変身中の出来事を覚えている。

 しかし、変身後の「私」自身は、毎回、死んでいる。

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