第2話 ドカ盛り王子様、白鷺玲音(1)
「
ある日の休み時間、
進路希望調査書――って、あ……。進学先の第一希望とか第二希望とか書くやつだ。すっかり忘れていた。
「あー……ごめん。いま、適当に書くよ」
「適当に? それなら、いっそ僕が書いてあげようか?」
いたずらっ子の微笑みで、僕が鞄から取り出した進路希望調査書をするりと奪って、玲音はさらさらとペンを走らせた。
慌ててひったくると、第一希望には『お婿さん♡』と綺麗な筆跡で記されていた。しかもボールペンで。おい何すんだ。
「ちょ、ちょっと、玲――白鷺さん! どうしてくれんのこれ」
「そのまま出せば良いじゃないか。姫宮君なら可愛いお婿さんになれるよ。……ふふ、冗談さ。ちゃんと予備があるから安心して」
クスクス笑いながら、真新しい進路希望調査書を手渡してくる。
「変な冗談はやめてくれよ。お婿さんって……」
「お嫁さんの方が良かった?」
「……白鷺さん」
「おっと、これ以上怒らせると、後が怖そうだ」
また、クスクス笑う。
ビジュアルは、いわゆる正統派の王子様。外国の血が入っているとかで、さらさらの金髪ショートカットに青い眼、そして高身長という、まるで漫画かアニメから抜け出してきたかのような、パーフェクトな美貌を持つ。
しかも、クラスの委員長を務め、定期テストでは毎回学年トップテン入りする勤勉さを持ち、部活動には未所属ながら引っ切りなしに助っ人選手を頼まれるほどの運動神経を誇り、休日には雑誌のモデルもやっているらしい。
対して、僕。
クラスの隅っこ、自席にへばりついて進路調査書を埋めている、ちょっとだけ――平均よりも、ほんのちょっとだけ――背が低い以外、特に特徴のない男子。
「へえ、第一志望は西都大学文学部なのか。第二志望は経済学部……西都大学以外はないのかい? 姫宮君ならもっと上も目指せると思うけれど」
「人の志望校を勝手に見るなよ。……家から通うって考えたら、距離的にも学力的にも一番ちょうどいいんだよ。就職にも強いし」
「ふぅん。もったいない。まだ二年なんだから――」
そこで、玲音に声がかけられた。
「玲音くーん、次、体育だよー」
取り巻きの女子の一人が、教室の扉の近くで、にこやかに手を振っている。
玲音が振り返って、手を振り返す。
「もう少し待ってくれ、姫宮君からプリント貰ったらすぐ行くから」
「先に行ってよっか?」
「まさか。僕に君達をエスコートさせてくれ、お嬢さん達」
玲音のわざとらしいウィンクに、たむろしていた女子達が黄色い声を上げた。
玲音は女子からの人気が凄くて、休み時間になると、いつもファンの女子に囲まれてしまうのだ。中には、ほとんど信奉者みたいな女子も何人かいて、玲音が男子と話していたりすると、物凄い形相で睨んで来る。
……たった今、僕も睨まれている。うわ、目が合ってしまった。超怖い。
大急ぎで調査書を埋めて、玲音に手渡す。
「ほら、さっさと行ってやれよ」
「あ、そうだ。姫宮君もエスコートしてあげようか?」
「馬鹿言ってないで行けって……。更衣室違うだろ」
「つれないなぁ。ああ、あと、そうだ。姫宮君――」
ふいに、玲音が身を屈めて、僕の耳元に唇を近づけた。
「今日の放課後は直接、君の家に行くから。よろしくね」
急に囁かれて、僕はびっくりして椅子の上で仰け反ってしまう。
そんな僕を見て、玲音は愉快そうに笑いながら教室を出て行った。
……まったくもう。
近くの席の男子が、不思議そうに首を傾げた。
「姫宮、最後、王子様に何言われたんだ?」
「あーえっと、進路調査書の……まあ何でもないよ。ほら、僕らもそろそろ着替えて体育館に行かなきゃ」
適当に誤魔化して、僕は席を立った。
玲音が、週に何度も僕の家に来ているなんてクラスの奴らに知られたら、信奉者に八つ裂きにされかねない。
……なお、体育では玲音がバスケで無双し、バスケ部の女子達を抜き去り一人で五十点くらい取っていて、思わず見蕩れてしまった。
いいなぁ、背が高くて。
次の更新予定
2025年12月20日 00:00 毎日 00:00
僕の高校には学年イチの王子様系女子が三人いるし、全員ハラペコだし、うちにご飯を食べに来るし ヤマモトユウスケ @ryagiekuru
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