【エピローグ】
指先から感覚が剥落し、私の輪郭は音もなく崩れ落ちていく。痛みはない。ただ、どろりとした懐かしい粘土の匂いが、肺腑を満たすだけだ。
薄闇に浮かぶ祖母の遺影と目が合う。かつて畏怖したその瞳の奥に、私は今、狂気にも似た深淵な「慈愛」を見る。「守りきった」――それは私を外の世界という乾燥から隔て、この湿った檻で形を繋ぎ止めるための、あまりに哀しい呪詛だったのだ。
肉体が溶け、意識が泥濘(ぬかるみ)へと還る刹那、私はようやく、雨宮の血が求めた不変の繭の中で安息を得る。
雨はまだ、降り止まない。私のすべてを優しく溶かすように。
泥繭(どろまゆ)の家 @hashito_
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