最弱が故に貶められ惨殺される高慢悪役貴族に転生したぼくは、原作知識と最強の魔法の力を得て圧倒的"最強"になり、敵対者に事前報復します。ぼくは死にたくないッ!

軸瑛

1章

第1話 まだ最弱な高慢貴族

 もし世界で誰にも勝るほどの力を手に入れたとすると、人はそれをどう使うのだろうか。

 そして、その力には平衡を保ったり釣り合いをとる方向に働く物理法則のように、大きな代償でもあるのだろうか。


『まだみんな最強のぼく.....を知らない』






 ***






 ドンッ

 拳に気持ち良い快感がするのと同時にぼくの頭に強烈な痛みが突如として襲って来た。


「あっ……ぐぐ……っ」

「いっ、痛、ど、どうされましたかスリン様」


 その瞬間、ぼくの頭の中に異様に写実的な記憶が大量に流れ込んでくる感覚がした。

 そうか、ぼくはゲームの中に転生しているのか。

 それと、さっき気持ちよさは人を殴った時のものか。


「ハッハッハッハ。来たぞ。なんのしがらみのない世界に」


 そう言った瞬間、大量の凄惨な記憶が強制的に想起され、ぼくは嘔吐した。

 どれもぼくが殺される記憶だった。


「……スリン様がおかしくなられてしまった! 早急に医者を呼んでこなければあああ」


 スリン様とは呼ばれていたが、本当にそうなのか? 全速力で走り去る人を見た後、ぼくは側にあった鏡を見た。


 白髪に悪そうな紫色の目、これは確実にスリン・ルータスだ。

 なんと幸運なこと。しかし、不運なこと。


 ぼくは、今、間違いなくスリン・ルータスという最弱の悪役の貴族になってしまっている。


 この部屋の雰囲気や先ほど走り去った使用人の既視感からここはバーチャルネイションというぼくが前世で遊んだゲームに似ていることは確実だ。


 おそらくぼくはこのゲームが原作であるかのような世界に転生したということだ。


 前世でこのゲームはあまり遊ばれない深淵に眠っていた。


 あのゲームには一応、主人公の立ち位置のキャラクターはいた。そして、様々なキャラクターを操作することができ、キャラクターごとに多様なシナリオがあった。


 このゲームは3Dゲームだ。

 3Dゲームならば、戦闘の派手さなど他に作り込む要素など無限大にあるが、シナリオ重視なためか戦闘などの作り込みも薄い。

 2Dゲームで十分なほどにだ。


 それに、シナリオが存在しないところまでストーリーが進むと強制終了してしまう。しかし、強制終了するような分岐にはなかなか辿りつかなかったはず。


 そう、褒められるところは、このように全てを把握しきれないくらい異様にストーリー分岐が細かいことだけだった。


 なぜか知らないが、この世界に来る前のことは、ぼんやりとしか思い出せない。

 しかし、ぼくはこのゲームの内容をかなり覚えている。


 ぼくには確かにこのゲームをした記憶があるのだ。

 そのため、確実にぼくはあのゲームと似た世界に転生したことだけは言える。


 しかし、それよりもっと大事なことがある。

 魂に刻まれるほどこびりついた記憶。


 ぼくが前世で途方もなく世の中を恨んでいたことだァ!


 この今すぐ物を破壊したくなるような胸のムカムカが何よりの証拠だ。

 もうぼくがの記憶が正しいのか正しくないのかどうでもいいくらいに怒りが湧き上がってくる。

 前世の記憶はぼやけているが、これだけは、はっきりと感情として現れてきた。


 しかし、今はなんとか我慢する。

 ぼくにはこの怒りをぶつけたい相手がいるからね。


 このゲームの攻略やストーリ分岐なども脳裏に焼き付いているかのようにはっきりだ。

 いや、違うな。一部知らないこともある。


 他のキャラクターはというと一応やってはいたが、数回ほどやったきりだ。ストーリーなど全てを完全に記憶しているわけではない。


 運の良いことに、ぼくはよくこのスリンというキャラクターで遊んでいた。ぼくがよく知るキャラクターのため、予測不可能なことにも対応しやすいだろう。


 しかし、運の悪いことにこのスリンというキャラクターはぼくの知る限り不遇な目にしか会わないのだ。


 そして不快なことに、今ぼくはいくつものスリンが殺される時の情景を鮮明に覚えている。まるでぼく自身が本当に殺されたみたいな記憶だった。だからぼくはさっき吐いちゃったね。


 一応主人公となるキャラクターはいるが、どんなキャラクターでもその視点でのストーリー体験ができるようになっている。


 もちろん自分が選んでいないキャラクターとの会話は多くある。


 ぼくの記憶が正しければ、主人公を選ぶ人が多かったはずだ。それは、基本的に主人公が優遇されたストーリー構成だからだ。


 しかし、スリンは主人公からすれば、世の中を悪に導く存在で邪魔なだけに、ざまぁするだけの対象だ。


 でも、ぼくは思うのだ。有る事無い事捏造されているだけで、スリンは悪くないやつだと。


 ぼくと同じように世の中に対して不満を持っていて、よく同情しながらプレイしたものだ。


 しかし、理不尽な終わり方しかしないので、その度にキレ散らかし、絶対にぼくが成功に導いてやるからなと強く誓っていた。

 こんな好機はない。今度こそこの子を救ってみせる!


 それはいいとして、今ぼくは原作でいうどの時系列にいるのかよく分からない。

 鏡を見たが、子供であることしか分からず、年齢は判別つかなかった。


「ねぇ、ぼく何歳だったけ?」


 近くにいた白い服を着た使用人(医者)のような人に話しかけた。


「はい。スリン様は7歳でございます。少し記憶がなくなっているかもしれませんね。最近どこか頭を強く打ったとかありますか?」


「……」


「……最近熱を出したりもなかったはず。どうしてしまったんだ……。スリン様、頭は打たれていないのですよね……? ……反応がない。ああ、医者の私でさえわからない。」


「……」


 今は7歳ということか。

 それなら学園に入る前だ。スリンは主に学園編での行動で死へのルートが確定していた。


 スリンは11歳になる年から貴族の通う学園に入ることになっていて、今はどう足掻いても最弱だ。


 そのため、ぼくは絶対に死なないような策を3.4年以内に取る必要がある。

 原作知識はあるがそれだけでは少し心許ないからね。


 原作ゲームでのスリンというキャラクターのゴールはただ長く生きることそれだけだ。よく、ぼくは今回は前回よりも2日長く生きれたなとかで記録を更新していたな。


 なぜかスリンというキャラクターはすぐに死んでしまう。 

 ぼくはスリンが弱いからだと思う。弱いから他の上級貴族に貶められるのだ。

 だから、ぼくは入念に最強になる。


 スリンは目標が地味なだけに存在すらプレイヤーの記憶に残らなそうなキャラクターだと思うだろう。


 しかし、ぼくはこのスリン・ルータスというキャラクターは最もお気に入りだ。

 頭が良く、おまけに容姿も良い。

 しかし、弱い魔法しか使えず、すぐ死ぬ。それでも頑張るスリンを見てぼくはいつも応援していた。


 ぼくがスリンを好きな理由は他にもあった気がするが、現状の記憶ではここまでしかわからない。


 あと、理由は忘れたが、運良くスリンが長く生きていると周辺の国のお偉いさんに協力をしなければならない。


 でも、ぼくはそうするつもりはない

 ぼくは自分の力で全てを解決したい派閥だ。だから誰にも力を貸さなかったね。


 今のぼくならお偉いさんを全員失脚させて、このぼくが国の頂点の大権力者になってやる。


 確か、ルータス家は人を掌握する力に長けているため、強力な魔法は使えないが権力を手に入れることができていたはずだ。


 スリンは最弱キャラで虚勢を張ることで地位を維持することしかできない。いわゆる強者に敗北するだけのモブだ。


 だが、ぼくは違う! ゲーム知識で圧倒的無双をしてみせる! そして、このぼくが最強だと見せつけてやる!


 それから、ぼくは原作ゲームの経験から特定の上級貴族を恨んでいる。ぼくはそいつらに事前に報復もかましてやる!

 ぼくの鬱憤はそうやって晴らすことに決めてるからね。


「スリン様! スリン様!」


「ん?」


「どうされましたか。呼びかけても全く反応されませんでしたが、具合でも悪いのですか?」


「全然大丈夫。さっきのは気のせいでちょっとした気の迷いだよ」


 立場の危うさはあるが、ぼくも一応上級貴族である。


 まあ、事前報復の戦略をどうするかは、この立場を存分に満喫してからかな


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ここまで読んでくださりありがとうございます。


「スリン・ルータスの今後の動向が気になる」

「ストーリーが面白い」

「つまらないゴミ小説だ! アスファルト眺めていた方が面白い」


などなど、どんな感想を抱いたり、書いたりしても構いません。


その代わりと言ってはなんですが、この作品に❤️やフォローや「⭐︎」で応援してくださると作者は心の底からありがたいと感じます。

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