3
ふいに視線を斜め上に投げれば、小鳩のローズが見える。愛らしくも素っ気なく、頼りになる相棒。
三年前拾った時に、豆粒のようにつぶらな薔薇色の目と小さな嘴が可愛くて、そう名付けた。
先程からの盛大な嘆きは、ローズに聞いてもらっている。当のローズといえば、その小さな嘴で器用に毛繕いしており、シェリの話を聞いているのかいないのか、よく読み取れない。いつものことだ。シェリは聞き役に徹してくれていると、勝手に解釈している。それに安心して、嘆くことができるのだ。時折慰めるようにさえずってくれる、それだけで十分だった。
「ねえ、ローズ。わたしって、このままでいいのかな……」
毛繕いをしたまま、つぶらな瞳がシェリを見た気がした。
「このまま、――生きていて、いいのかな」
シェリが生まれたのは農業が盛んな、のどかな小国レーヴの片隅だった。
のどかな小国の、さらにのどかな土地を治める穏和な領主。それがシェリの父だった。
おっとりといつも朗らかな笑顔を浮かべ、町を歩けば一歩で町民から声がかかる、そんな人好きのする人だった。母はきっぱりとした人で、よく父に小言を言っていたのを覚えている。真面目な人だったから、父の良く言えば寛大、悪くいえば大雑把なところに呆れていた。正反対と言える二人だったが、とても仲睦まじい夫婦だったと思う。
ゆっくりと時間の流れる土地の、穏やかな夫婦の元に生まれたシェリは幸福だった。
両親曰く、シェリは生まれた時から類稀なる愛らしい赤子だったそうだが、きっと関係なく彼らは愛してくれていただろう。
溢れんばかりの愛情をそそがれて、シェリは伸び伸びと育った。多少の失敗やどんくささは愛嬌に変換され、ともすれば他者を傷つけ兼ねない察しの悪さも、子供だからと許された。
十二歳の頃、両親が事故で他界するまでは。
「――――」
ぐっと強く目を閉じる。
次に目を開けると、その緑の瞳には強い決意が宿っていた。
この時、シェリを見つめるローズのつぶらな瞳から感情を読み取ることができていたら、あるいは心を読むことができていれば、「嫌な予感がする」という声が聞こえてきただろう。
しかし、当のシェリは気付かない。
突っ伏していた机から勢い良く上体を起こし、誰にともなく力強く頷いた。
途端、小鳩のローズが何かを訴えるように羽ばたいた。
――何に対して頷いたの。
もしも言葉を交わすことができたなら、そんな声が届いたのかもしれない。
けれどシェリに小鳩の言葉がわかるわけはない。ローズのつぶらな瞳に、もう一度頷いて見せた。
言葉は通じないが、心は通じているとシェリは考えている。ローズなら自分の想いを汲み取ってくれるだろう、そんな信頼の元に生まれた仕種だった。
「決めたよ! ――死のう」
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