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「うわあああぁん! もう嫌! 生きるの辛いっ、怖いぃぃぃ……」

 机に突っ伏しながら、シェリは嘆きの声を上げた。

 己の声が狭い室内に響くのを聞きながら、机の上に投げ出された栗色の髪を見て目を細める。

 ――ああ、木の良い匂いがする……。

 泣きながら鼻をひくつかせた。きっと今の自分はひどく情けない姿をしているだろう。

 けれど、そんなことは構わない。この場には今、シェリだけなのだから。――そう考えたのが伝わったのかもしれない。鋭い鳴き声が室内に響いた。

 薄灰色の羽毛に時折曇り空のようなブルーグレーが混じる、丸みを帯びたフォルム。小鳩のローズだ。

 天井から吊るされた燭台を止まり木がわりにして、毛繕いに勤しんでいた彼女は、整えたばかりの羽を広げて、訴えかけるようにはためかせる。シェリは思わず「ごめんね」と謝った。

「ローズ……あのね、あの後もね、やっぱり食堂のおじさんにすっごく冷たい目で見られたの……! もう一度行かせてくださいってお願いしたんだけどね? もう任せられない、って、明日は来なくていいって……!」

 これでもう何回目だろう。いや、何か所目だろうか。

 自分でいうのもなんだが、シェリは誰もが羨む美貌の持ち主だった。

 その美しさに対して、余りあるほどの自覚を持っている。栗色の髪とブラウンの瞳は、この国では数えきれないほどみられる素朴な色合いで目立つわけではない。それでも、シェリの存在は周囲の目を惹いた。

 歩くだけで、手を上げたり顔を傾けたり、些細な仕種だけで、周囲から感嘆の吐息が漏れる。その場に現れただけで、まるで光に照らされたかのように輝きを放つ美しさは、あらゆる人を魅了した。

 しかし、それだけだ。

 圧倒的な美貌も、シェリの無能さの前では、ただの宝の持ち腐れなのだ。

「せめて散らかした道の片付けだけでも……って。それすら断られちゃった」

 ――本当、わたしって役立たずの能無しだよね。

 小さな呟きは突っ伏したままの木机に吸い込まれて消えた。

 『シェリ』という人間を言い表すなら、「顔だけ」という言葉がぴったりだと考えている。

 その造形は数多の言葉を尽くしても足りないほど、完璧に整っている。美の結晶、神の作り出した傑作、『シェリ』という名の芸術。――決して誇張ではない、それほど彼女の容貌は美しかった。

 しかし、シェリという人間そのものは、決して完璧ではなかった。

 手先は不器用で要領も悪く、頭だって良くない。相手の言葉の意味を理解するのに時間がかかるし、自分の考えを相手に伝えるのも苦手だった。

 皿を洗えば最低でも一枚は滑らして割る、荷物を運べば落として散らかす、掃除をしようものなら一日以上時間がかかる、――等々。大げさではなく、シェリの行動の先には必ず失敗が付いてくると言っても過言ではない。

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