2、初めての野宿

「コズエ、とりあえずその格好は目立つから、着替えた方がいい」

(制服だもんね。しかも靴は上履き。でも着替えは?)


 俺は、リュックから魔法袋を取り出すと、着替えのズボンとハイネックのシャツ、それと靴を渡した。


「え!? 袋より荷物の方が大きいけど、もしかしてそれは魔法なの!?」

「うん。コズエは魔法のない世界から来たんだな」

「そうだよ。すっごーい!」


 コズエは目をキラキラさせて魔法袋を見ていた。


「あ、ちょっと後ろ向いてね」

「分かった」


 俺はちょっと赤くなって、後ろを向いた。着替えが終わるとコズエは服をたたんだ。


「これはどうしよう」

「魔法袋に入れておくよ。どこかで売るか、布は役に立つから持っていてもいい」

「分かった」(戻る時、服はどうなるのかな?)


 俺は服をしまってから、コズエにマントを渡した。コズエはマントを羽織った。


「私、男のふりをしたほうがいいよね」

「そうだな。そのままでも十分男に見えるけど、声で分かるから黙っていたほうがいい。話すのは俺がする」

「ちょっと! どうせ私は男っぽいですよ」


 しまった! つい、うっかり言って、怒らせてしまった……。


「ごめん……」

「あ、いや、こちらこそ、助けてもらってるのに、どうでもいいこと言ってごめんなさい」


 コズエはシュンとした。俺のほうが悪いのに、コズエは謝ってくれた。気を取り直して、明るい声で言う。


「さあ、行こう」

「うん」


 コズエも明るく返した。二人で森の道を歩き出した。


「コズエがどうして捕まったのか、聞きたいんだけど。俺が買うはずだったのは、ピンク髪の女の子だったんだ」

「そうだ! あいつ、腹が立つ! その子が私を身代わりにしたのよ!」

「え? その子と会ったのか」

「そうよ。私はいきなりあの小屋に現れたの。そしたらそいつが、ほどいてやった縄で私を縛ったのよ!」


 なるほど、そういうことか。その女が見張りを倒して逃げたんだ。そこへ、時間になって戻ってきた仲間が騒いだと——。

 とんでもない女だな。コズエが怒るのも分かる。コズエを見捨てたんだから、女呼ばわりで十分だ。


「でも、シュナが来るなら、あの子も逃げなくてよかったのにね」

「まあ、そうだな。でもそれは分からないから……」

「人を売るなんてとんでもないことだよね……。私の世界でも外国ではあるけど」

「そうなの? 異世界人は幸せな国から来ると言われている」


 俺は驚いて言った。ここと変わらないのかな?


「う~ん、そうかも。私の国では戦争はないけど、外国ではあるから」

「そうなのか……」


 どこも同じなのか。でも、コズエの国は幸せなんだろう。こことは違う国だからこそ、この世界に呼ばれたんだと思う。


(これは聞いた方がいいかもしれない。最初が肝心だというし)「あの」

「ん?」


 コズエは顔を赤くして、言いづらそうだ。なんだろ?


「この国の生理用品はどんなものがあるの?」

「! ああ、持ってきてある。股間に詰める綿だろ」

(なんかストレートだけど……。タンポンタイプなんだね。聞いて良かった)


 俺は慌てて言い、顔も赤くなってしまった。魔法袋から小さな袋を取り出した。前にも女性を保護したことがあったから、準備しておいた。


「持ってきた分を全部渡しておくよ。そのカバンに入れるか、腰につけておくといいよ」

「うそ~、ありがと~。神!」


 神? そう言って、コズエは俺に抱きついてきた! 俺は目をつむって注意した。


「大袈裟だよ! 簡単に人に抱きついたらダメだ」

「あ、ごめん。普段は抱き着かないけど。うれしすぎてつい、シュナは私と同じ黒い髪だし、女の子みたいで親近感があるんだよね」(それに優しいし)


 ガ~ン。そう思われていたのか……。ちょっとショックだった。確かに俺は、コズエより背が低いし、多分年下だ。


「え? あ、ごめん。さっきの逆だね。女の子みたいって言っちゃった」

「いいよ。これでおあいこだ」

「うん」


(下着は汚れちゃうけど仕方がない。なんか考えないと、布をもらおうかな)


 コズエは俺が渡した袋を見て難しい顔をしていた。俺はまた思い出した物を袋から出した。


「それと、当て布と替えの下着もあるよ」

「! 神!」

「飛びつかなくていいから」

「うん」


 コズエは飛びつくのを我慢した。ふ~。

 物を渡して、使い方の説明をした。


「必要なものはまた次の町で補充するから安心して」

「うん」(まさか男の子に生理用品の使い方を教わるとは……)



 日が傾いてきた。


「そろそろ、野営をしよう。この辺は夜でも過ごしやすいから、野宿しやすいよ」

「うん」(野宿か。まさか自分が野宿するとは思わなかった。キャンプもしたことないし)


 俺たちは道を逸れて、奥に入って行った。少し広い場所を探すと、探索石で、周りに人がいないか確認する。


「それは何?」(ただのきれいな石に見えるけど)

「周りに人がいないか調べる魔法石だよ。誰かいると危険だから、半径1㎞まで人がいるか確認できる。誰かが範囲に入れば小さいアラームで教えてくれる。知っている人も登録できるよ」

「へ~、すごい! 便利だね」


 この国はとにかく治安が悪い。人と会ったら泥棒だと思えだ。俺はコズエに、小さい緑のグリッドが浮き上がった探索石を見せた。人や動物、モンスターなど動くものは、赤い点で出てくる。持っている人は出ない。コズエのことも登録した。登録者の青い点が一個表示された。追跡モードの場合は、他の点は表示されずに、登録者だけ赤く表示される。

 周辺にある草を集めておく。拾った枝で火を起こし、スープ缶の蓋を缶切りで開けて、石で作ったコンロに載せた。缶の中に干し肉をちぎって入れる。


(スープ缶がある。意外と近代的?)


 ブリキのお椀にスープを入れて、コズエに渡した。切ったパンも渡す。


「神殿まで、どのくらいかかるの?」

「あと1日半かな」

(結構遠いな)


 食事が終わると、リュックから毛布を取り出してコズエに渡した。集めた草を敷いて、マントを着たまま横になった。

 辺りは静かだった。空には星が瞬いている。火はもう残り少ない。


「シュナはいくつなの? 私は17歳だよ。元の世界では学生だった」

「そうなんだ。ここでは、その年の学生は頭のいい奴だけだな。ほとんどの子供は家の手伝いをしたり働いてる」

「そっか……」


 コズエはちょっと気まずそうだった。俺も自分のことを話した。


「俺は15歳。仕事は冒険者で、宝探しをしている」

(二個下なんだ。弟みたいなもんだな。兄弟いないけど)

「俺は、グロット・オーを捜してるんだ。オーは神の宝という意味で、グロット王国にある神の宝のことなんだ」

「へぇ~。どんなもの?」


 コズエは興味を示した。


「まだ誰も見つけたことがないから、どんなものか誰も知らないんだ。

 それを手にした者は、何でも願いが叶うと言われている」

「すごい! じゃあ何か見つけたら、シュナに言うね」(私もシュナの役に立ちたいな)

「うん……」


 簡単に言うなと思ったけど、異世界人は神様と関係があるから、見つけるかもしれないな。ちょっと期待しよう。


「他にもモンスターが落とす魔鉱石やアイテムがあちこちにあるから、それを拾ってお金に換えるんだ。アイテムだけ落ちていることもある」


 コズエは顔が引きつった。


「それは、誰かがお亡くなりになったりして、落ちてる物ってこと?」

「まあ、それもあるかも。モンスターが死んだときも落ちてるけど」

「モンスターがいるんだ。やっぱりこの世界、怖いね……」

「大丈夫だよ。俺がいるから」

「頼もしい! そうだね。シュナは一人で行動してるから、相当強いんだよね」

「魔法アイテムがあるからだよ」


 俺はちょっと謙遜してみせた。

 育ての親のハシブおじさんと分かれてから、2年になるな。それまでは、おじさんと共に行動していた。おじさんは俺が所属している、人身売買組織の撲滅のために活動しているフリオン団のリーダーだ。最初は二人だけだった。メンバーが少ないので、独り立ちしたら一人で行動するしかなかった。

 そういえばその後、コズエに似た奴と会ったな。魔法使いで、タクトだっけ。年が近いから俺に声をかけてきて、コズエと同じことを言った。


『君、一人で行動しているなんて、すごいね』


 複数のパーティを探していたから、その場で分かれたけど、あいつはいいパーティが見つかっただろうか……。

 二人ともいつの間にか眠りについた。

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グロット・オー ~スナープ団をぶっ潰せ!~ 雲乃琳雨 @kumolin

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