グロット・オー ~スナープ団をぶっ潰せ!~

雲乃琳雨

1、コズエ召喚

「いった!」


 こずえはドスンと床に叩きつけられた。そこは、古びた木の小屋だった。


 どういうこと!? さっきまで廊下を歩いていたのに!


 学校の部活に向かう途中だった。いきなり目の前がゆがみ、気が付くとここに倒れていた。

 起き上がって辺りを見回すと、高い位置に四角い十字格子の窓が付いている。外は明るい。床には藁が散らばっていた。着ている半袖のシャツと黒いプリーツスカートにも藁が付いている。手元には、バドミントンのラケットが入ったソフトケースだけ。持っていた他のカバンはなかった。

 私の目の前に、ピンク髪でツインテールの女の子が、驚いてこちらを見ている。ピンクのホルターネックに青の短パン、ベージュのジャケットと編み上げのブーツを履いていた。かわいい子だなと思った。同じ年ぐらいかな? コスプレ?


「あの、ここはどこでしょう?」

「助かったわ! ねえ、縄をほどいてくれる?」


 女の子は答えずに後ろを向いた。後ろ手に縛られていて、私はギョッとした。これは、どういうことなの!? この子は監禁されているの?

 私はとりあえず縄をほどいた。


「ありがとう!」


 その子は私から縄を取ると、その縄で私の両手を縛った。


「え!?」

「じゃあね。親切な異世界人さん」


 そう言うと、ドアを開けて出て行った。

 異世界人? ということは、ここは異世界なの!? まさかね……。私は小屋に取り残された。外から男性らしきうめき声が聞こえた。静かになる。

 怖い……。私、どうなってしまうの? 涙が出そうだった。でも、泣いても何も変わらないと思った……。しばらくすると、外が騒がしくなった。



 シュナは指定の場所まで来ていた。

 森を出ると周りは砂漠で何もないが、掘っ立て小屋がぽつんと建っていた。その前で男たちが騒いでいるのが分かる。俺はポケットに入れてある録音石のスイッチを入れた。録音石は魔鉱石を加工したもので、上下が五角形で、真ん中が幅広い形の半透明の黄色い石だ。小さな光の操作盤も出るが、片手で操作するときは、強めに指で押せばスイッチが入る。切るときも同じだ。


 どうしたんだ? 人買いが三人慌てているな。


「女が入れ替わっている!」

「まあいい、もうすぐ仲買人が来る。渡せるものがあるならそれでいい」


 男たちは俺に気が付いた。小屋の中から、手を縛られている若い人が押し出された。黒髪で、一つ結びをしている髪先は短い。顔は少年にも見える。事前に聞いていたのは、珍しいピンク髪の女の子ということだが。膝上のスカートをはいているから、多分この子も女の子だ。変わった服装なのでもしかして……。


 この子は異世界人だ!


 俺は男たちに近づいた。女の子は俺を見て、驚いた顔をした。俺を観察しているようだ。俺の格好は、四角いリュックを背負い、腰に中剣を差し、マントを羽織っていた。旅は両手が使えるのが必須だ。


(私と同じ黒い髪の男の子だ。年も近そう)


 俺は男たちに話しかけた。


「仲買人だ。人を買いに来た」

「おう、こいつだ。金貨一枚だ」


 俺は男に金貨一枚を渡して、女の子の縄を受け取った。その子は、後ろを向いた。


「ラケットが」


 荷物があるのか? 「この子の荷物も渡してくれ」


 男が仲間に合図すると、他の男が黒くて長い袋を持ってきた。男が聞く。


「これだろ?」


 女の子はうなずいた。俺がそれを受け取る。俺は、女の子に小声で手短に話した。


「森まで急ぎ足で行く」


 俺はその子の縄を掴んで、引っ張って行った。森に入るとモスグリーンの探索石を出して、周りに誰もいないことを確かめる。


「ふー」


 奴隷の保護に成功した。俺は録音石のスイッチを切って、内容を近くの兵站へいたんに転送した。録音石はポケットに入れていても、声から映像を再現できる。兵站は兵士のいる駐屯所だ。

 女の子は憔悴した顔をしていた。無理もない。突然来た異世界で、売られてしまったのだから。


「大丈夫だ。このグロット王国では人身売買は違法だ。俺はシュナ。奴隷を買い取って保護している冒険者グループ、フリオン団の者だ。人身売買組織を捕まえることに協力している」

「そうなの……?」(それは、助かったということ?)


 女の子の目から涙が溢れた。俺は焦った!


「良かった。私売られちゃったのかと思った……」(私と背丈の変わらない年下の男の子が、お使いで人を買うなんて。どんな世界なのよここは!)


 気が緩んだのか……。女の子は手の甲で涙を拭った。俺は胸に手を当ててほっとした。


「君は異世界から来たんだろ?」

「分かるの!?」

「ああ、分かるから安心して。この世界には異世界から来る人がたまにいるんだ。神様がこの世に介在するために、異世界から人を連れてくると言われている」

「そうなの? すごい迷惑なんだけど」


 そりゃそうだよな。とりあえず安心させないと。


「大丈夫だ。役目が終わると帰れるから」

「え!? そうなの? 帰れないかと思った!」

「みんな帰って行くし、異世界人は神様に保護されているから、ひどい目に遭ったりしない。

 異世界人は神殿で保護してもらえるから、今から君を神殿に連れて行くよ」


(良かった。帰れるんだ!)


 女の子はほっとしたようだった。良かった。


「私の名前は、梢」

「よろしく、コズエ」


 コズエが手を差し出したので、俺はコズエと握手をした。

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