第2話 バトル開始
[警告:危険対象を検知しました]
その瞬間、視界の隅に突然半透明の画面が次々と浮かび上がったかと思うと、画面の中央に太いゴシック体が表示される。
《緊急クエスト発生!
クエスト名:深夜の強奪者の排除
目標:このままでは店舗の売上が強奪され、口封じのために殺されてしまう! その前に強盗を退治し、事態を収拾せよ!
クリア条件:強盗二人組の行動不能化、または逮捕
報酬:未定》
《初期タスク:バーコードリーダーで対象(強盗)をスキャンし、情報を取得せよ》
「まじかよ……」
晴斗は思わず声に出して呟いた。能力の発現、バーコードリーダー、そして目の前のクエスト画面。現実離れした状況に、晴斗の混乱は極限に達していた。これは夢か、それとも頭がおかしくなってしまったのか。
その時、店内にいた鉄パイプを持った強盗が、苛立ったように声を荒げた。
「おい、どういうことだ……!店員がどこにもいねぇぞ!」
「……もしかしたら、バックルームで隠れてるのかもしれねぇ。念のため、裏手から待ち伏せしとけ」
「姿を見られるんじゃねぇぞ」
「あ、あぁ……!」
強盗たちは店内に店員がいないことに気付いたようだ。警戒するようにバックルームのドア、すなわち晴斗が隠れているドアの方へと視線を向けてきた。
フードと覆面の隙間から強盗の鋭い目線が、まさに晴斗が覗き込んでいるマジックミラーの小さな窓に向けられた。ドクン、と心臓が鳴る。
ヤバい、気付かれた…!?
反射的に顔を引こうとする。
あちら側ではこちらの顔が見えないことを頭で理解していても、体が言うことを聞かなかった。
二人の強盗のうち、鉄パイプを持った大柄な男が、威嚇するように一歩、また一歩とバックルームのドアに向かって近づいてくる。
どうする、今すぐ逃げる、いや、通報か? くそ……! どっちにしろ、この状況じゃ間に合わない!
混乱の中、視界に浮かぶ 《初期タスク:バーコードリーダーで対象(強盗)をスキャンし、情報を取得せよ》 の文字が、脳裏を叩いた。
もう、どうにでもなれ!
晴斗は半ば衝動的に、手に握っていたバーコードリーダーを、マジックミラー越しの強盗に向けて突き出した。そして、人差し指に力を込めて、カチリとトリガーを引く。
ピッ!
ガラスの壁を隔てているにも関わらず、澄んだ電子音が響き、彼の目の前に、強盗の情報を示す半透明のパネルが瞬時に展開した。
《対象情報取得:男(大柄)》
《氏名:松岡 隆 》
《年齢:32歳》
《身体情報:身長189cm、体重81kg。右膝に靭帯損傷。(過去に手術歴あり)》
《心理状態:【焦燥(75%)】【攻撃性(90%)】
金銭への執着:高。》
《装備品:覆面、錆びた鉄パイプ?》
その男が持っている武器、身体の弱点、そして名前まで。膨大な情報が目の前に流れ込み、晴斗は息を飲んだ。
……いや、これでどうやって倒せっていうんだよ! 鉄パイプなんて持ってるやつを、ただの大学生の俺が倒せるわけねぇだろ!
晴斗は情報パネルを前に呆然とし、心の内で叫んだ。相手の名前や膝の古傷がわかったところで、目の前で鉄パイプを持った強盗が迫ってくる現状をどうにかできるわけがない。
俺はこのまま、こんなとこで死ぬのか……!?
その時、視界のパネルがわずかに光り、 《初期タスク:バーコードリーダーで対象(強盗)をスキャンし、情報を取得せよ。》 の部分に緑色のチェックマークがついた。
直後、画面全体が更新され、次のタスクが大きく表示される。
《次のタスク:【弱点の発見と利用】
目標:ターゲットの行動不能化を目的とし、取得した情報から最も効果的な弱点部位を攻撃せよ
報酬:未定から「一時的な能力最大解放」へ変更》
《ヒント:敵の装備の攻撃範囲外から、確実に行動を制限できる部位を狙うことが望ましい。》
その間に、鉄パイプを持った男は、バックルームのドアに手をかけ、ガタガタと揺さぶり始めた。
「くそ……! 隠れてねぇで出てこい!」
大柄な強盗の怒鳴り声が響く。ドアのロックが壊されるのも時間の問題だ。
晴斗の視線は、表示された情報に釘付けになっていた。
《身体情報:身長189cm、体重81kg。 右膝に靭帯損傷(過去に手術歴あり) 》
右膝の傷……! 鉄パイプで殴りかかる前に、そこを潰せれば……!
晴斗は焦りながらも、バックルーム内を見回した。
右膝を狙うには、至近距離での格闘は絶対に無理だ。鉄パイプのリーチに勝る、何か少しでも対抗できそうなものは……!
すぐに彼の視線は、先日入荷したばかりの何箱も置かれた飲料用の缶がぎっしりと詰まっている小さな段ボール箱に向けられた。
「これだ……!」
晴斗は素早く、しかし音を立てないように箱を抱え上げた。そして、鉄パイプの男がドアを蹴破ろうとしているタイミングを見計らい、バックルームのドアから少し離れた位置で待ち構える。
バン!
男はロックが完全に破壊すると、勢いよくバックルームに踏み込んできた。暗がりの中の晴斗を見つけ、すぐに鉄パイプを振り上げようとする。
「テメェ、隠れてんじゃねえぞ……!」
晴斗は、男の動きが止まる一瞬を逃さなかった。彼は「弱点」と表示されている、タケシの右膝めがけて、渾身の力で重い段ボール箱を投げつけた。
ドゴッ!
段ボール箱は狙い通り、タケシの右膝の側面を直撃した。靭帯の傷を叩かれた衝撃と激痛に、男は絶叫を上げ、振り上げかけた鉄パイプをその場で落とした。
「ぐああっ!?」
男はその場にバランスを崩し、激しく右膝を押さえながら、重い体躯を床に崩れ落ちる。
い、今のうちに通報を……!
晴斗がそう思ったのも束の間、床に膝をついたままの男が、血走った目でこちらを睨みつけてくるのに気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます