第6話 将軍の「ただし書き」

 渋谷のスクランブル交差点でアサルトライフルを乱射し、ランキングトップに躍り出た強盗団。その凶行の最中に、全国に緊急放送が流れた。

​ 画面に映し出された水戸将軍は、満面の笑みを浮かべながら、異様な声明を発表した。

​「国民よ、我が少子化対策は順調に進んでいる!しかし、これ以上の混乱は避けたい。よって、ここに新たなルールを追加する!」

​ 将軍は指を一本立て、高らかに宣言した。

​「本日より、『子を持つカップル』、すなわち『夫婦およびその子供』は、殺害対象から除くものとする!これを殺害した者は、賞金どころか、国家反逆罪として処罰する!」

 ​この宣言は、新たな混乱を引き起こした。


 ​🤯 ルールの逆説

​ 強盗団の混乱: 渋谷で乱射を続けていた強盗団は、この放送に一時的に銃撃を停止した。「子持ちはダメだと? いちいち確認する余裕なんてあるか!」とリーダーは怒鳴った。彼らの無差別の暴力は、将軍の「国策」の都合の良い部分にさえ反することになった。

​ 市民の戸惑い: 結婚し、子を持てば守られる。しかし、それは「子を持たないカップル」を合法的に狙ってよいという、さらに残忍な選別を意味していた。

​ 渋谷の街は、銃声が止んだ一瞬の静寂に包まれた。人々は、自分たちが「守られる側」なのか「殺される側」なのか、顔を見合わせて確認し合った。

 🥋 佐藤、戦場へ

​ 私は渋谷へ急いでいた。将軍の新しいルールを聞いても、立ち止まる理由にはならなかった。強盗団の手にアサルトライフルがある限り、彼らはカップルであろうと、子持ちであろうと、無関係な市民であろうと、誰彼構わず殺害するだろう。

​ 交差点から数百メートル離れた路地に身を隠し、状況を観察する。

​ 強盗団は、ライフルを構えたまま周囲を警戒している。将軍の命令を受け、彼らの動きはわずかに鈍くなったが、その暴力性が消えたわけではない。彼らの目的は略奪であり、賞金はただの建前だ。

​「佐藤。無茶だ。あの距離で、あんな数の銃を相手に、空手でどうする?」

​ 自問自答する。いくら腰を鍛え、体幹が鉄芯のようになろうとも、銃弾一発の前には無力だ。

​ 武道は、人を殺すのではなく、止めるためのもの。

​ 私は、あの日の宗像先輩の蹴り、那須先輩の突きを思い出した。彼らは、身体の強さだけでなく、心の軸が崩れたからこそ、私が制止できた。

​(銃を撃つ人間を止めなければならない。だが、銃弾よりも速く、敵の心の軸に届くには…)

​ 私は、強盗団のリーダーが立っている位置と、逃げ場のない市民の位置を瞬時に計算した。

​ 一瞬の隙。

​ 私は、全身の力を腰に集中させ、まるで弾丸のように飛び出した。

​「な、なんだ!?」

​ 強盗団が気づいた時には、私はすでに彼らの射程距離を半減させていた。

​「撃て!撃てーっ!」

 リーダーが叫ぶ。

​ 銃声が再び、耳をつんざく。

​ ババババ!

​ 私は、空手の移動術、**「捌き」**を駆使し、銃弾の雨の中を縫うように走った。地面を蹴るたび、鍛え抜かれた腰の筋肉が悲鳴を上げ、同時に私を前へと押し出す。

​ 一歩、二歩、三歩。

​ 銃弾は私の体をかすめ、コンクリートの壁を砕く。

​ そして、リーダーの目の前に、私が立っていた。

​「貴様、馬鹿か…!」

 リーダーの顔に驚愕が走る。

​ 私が放ったのは、突きでも蹴りでもない。

​体全体をぶつけるような、渾身の体当たりだった。

​ ドゴォン!

​ リーダーはアサルトライフルもろとも、背後の壁に叩きつけられた。他のメンバーが銃口を私に向ける一瞬の遅れ。

​ 私は倒れ込んだリーダーの手に触れるか触れないかの位置で、「止め」の突きを放った。

​「その狂気を、やめろ!」

​ リーダーの瞳から、戦闘と略奪の狂気が一瞬にして消え、恐怖と困惑に変わった。その衝撃は、彼の**「心の軸」**を、武道家のそれとは違う、純粋な人間の軸を打ち砕いた。

​ 他の強盗団は、銃を構えたまま、リーダーの崩壊を見て立ちすくんでいた。

​ 渋谷の街に、アサルトライフルの音ではなく、私の荒い息遣いだけが響いていた。

 順位

 1位 渋谷強盗団 595点 佐藤によってリーダーが制止される。子持ちカップル除外ルールで、点数の一部がグレーゾーンに。

 2位 山内 太一 450点 婚活会場爆破事件の犯人。現在潜伏中。

 3位 小田 信長 320点 負傷で活動停止中。その組織力は依然として脅威。

 4位 宗像 先輩 285点 逮捕・失格済み。

 5位 那須 隆也 190点 逮捕・失格済み。

 圏外 佐藤 0点 参加者ではなく、強力な武力を持つ犯罪者を制止する役割を果たしている。

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