第5話 渋谷の狂乱
山内太一による婚活会場爆破事件は、水戸将軍の「カップル狩り」がもはや制御不能なテロリズムに移行したことを示していた。人々は自宅に引きこもり、街からは活気が消え失せていた。
そんな中、この狂乱を「大衆の混乱に乗じた略奪のチャンス」と捉える者たちがいた。
渋谷強盗団。
彼らは、賞金一億円そのものには興味がなかった。彼らの目的は、将軍の命令によって警察機構が機能不全に陥っている状況を利用し、混乱の中で強盗と略奪を行うことだった。
しかし、彼らのリーダーは、一億円の賞金ランキングを「警察や軍隊の介入を遅らせるための口実」として利用することを思いついた。
「おい、ターゲットはカップルだ! 撃てば金になるんだとよ。ついでに銀行も狙うぞ!」
昼下がりの渋谷スクランブル交差点。世界有数の賑わいを誇った場所は、今、緊張と静寂に包まれていた。
バババババ!
突然、激しい銃声が響き渡った。
武装した強盗団が、改造車から降りるやいなや、アサルトライフルを乱射し始めた。彼らの標的は、明確なカップルだけでなく、単に隣を歩いているだけの男女、そして逃げ惑う一般市民全てだった。
「カップル解消だ! 賞金獲得だ!」
叫びながら、彼らは手当たり次第に通行人を撃ち倒していく。渋谷は瞬く間に、戦争地帯と化した。将軍の命令が、ついに**「銃器による無差別大量殺人」**を呼び込んでしまったのだ。
私は、山内太一が潜伏しているとされるアパートに向かう途中、このニュースを聞いた。スマートフォンから流れる渋谷の銃声と人々の悲鳴は、全身の血を凍らせるようだった。
(爆弾だけでは終わらなかった。次は銃か…!)
私の空手は、素手で人を制止するための武術だ。 手榴弾やアサルトライフルといった近代兵器の前では、いくら腰を鍛えても、一瞬で命を奪われてしまう。
「師範…」
私は立ち止まり、思わず師範に電話をかけた。
「佐藤か。渋谷のニュースを見たか。もう空手の出る幕ではない。武力を持ってしても、相手は銃器だ。逃げろ」
師範の声は震えていた。
「ですが、このままでは…! 空手は、銃よりも弱いんですか?」
「技はな。だが、心は違う」師範は絞り出すように言った。「武道家がその場に立っているだけで、絶望に抗う**『意思』は伝わる。佐藤、お前の命を無駄にするな。だが、もし、『人としての義』**が、お前を行かせろと言うなら…」
電話を切った後、私はアパートとは逆の方向、渋谷へと走り出した。
私の腰は、あの日の宗像先輩の蹴り、そして那須先輩の蹴りを受け止めてきた。その鍛え抜かれた**「鉄芯」は、単なる肉体の軸ではない。それは、「決して屈しない意志」**の象徴だ。
銃弾が飛び交う戦場に、素手の武道家が向かう。それは自殺行為かもしれない。しかし、武道家として、人として、この無秩序を放置することはできなかった。
「…行く」
私は呼吸を整え、渋谷の方向へ全速力で駆けた。私の狙いは、銃を撃つ人間ではなく、そのリーダーの**「心の軸」**を崩すことだ。空手は、殺すための技ではない。止めるための技だ。
アサルトライフルの無差別な銃声が、私を呼び寄せていた。
順位
1位 渋谷強盗団 580点 NEW! アサルトライフルを使用。短時間で山内を抜き、ランキングを更新。
2位 山内 太一 450点 爆破事件後、潜伏中。
3位 小田 信長 320点 負傷で活動停止中。
ランキングは再び入れ替わり、渋谷強盗団がトップに躍り出た。彼らが短時間で稼いだ点数は、これまでの武道家たちの「手作業」とは比較にならない。
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