第4話 爆弾と老いの悲鳴

 那須隆也が逮捕され、小田信長が負傷で潜伏している間も、水戸将軍による「カップル狩り」の狂気は衰えなかった。むしろ、三強の席が空いたことで、下位の追随者たちが一気に活動を活発化させ、街の治安はますます悪化していった。

​そんな中、社会の片隅で、別の形の絶望が熟成していた。

​ 山内太一。七十歳。

​ 彼は長年患っている心臓病のため、高額な薬を必要としていた。だが、将軍の無謀な政策による経済の混乱は、医療費を無慈悲に跳ね上げ、彼のわずかな年金では薬代すら賄えなくなっていた。

​「わしは、ただ生きたいだけじゃ…」

​ 絶望した山内は、将軍の掲げる「一億の賞金」に目を奪われた。しかし、老いた体に空手の技も、信長のような組織力もない。彼に残された選択肢は、より早く、より確実に、点数を稼ぐ方法だった。

​彼は、かつて軍の備蓄品であった手榴弾を闇ルートで手に入れた。

 🚨 婚活会場の惨劇

​ 標的は、将軍の政策下でもなお、恋を求め集まる人々、すなわち「カップルの卵」たちだった。週末の夜、都心最大級の婚活パーティー会場に、山内太一の姿があった。

​ 周囲は華やかで、未来を夢見る男女の笑い声に満ちている。山内の心臓は、病と緊張で激しく鼓動していた。

​「若いやつらだけが幸せになる世の中なんて…」

​ 彼は隠し持っていた手榴弾の安全ピンを抜き、震える手でそれを会場の中央に投げ込んだ。

​「お前ら、わしの薬代になれ!」

​ 轟音と閃光。

​ 会場は一瞬にして地獄と化した。ガラスが砕け、肉体が弾け飛ぶ。爆発の衝撃は、建物全体を揺るがした。多数の死傷者が出たという速報は、瞬く間に全国を駆け巡った。

​  

 🥋 佐藤の決意

​ 私は道場で、師範と共にニュースを見ていた。画面に映し出される惨状に、私たちは言葉を失った。

​「武道を使わず、無差別に殺す…これが、将軍の望む『賞金レース』の末路か」師範は怒りに震えていた。

​ この事件は、単なる「カップル狩り」の延長ではなかった。それは、社会の底辺に溜まった絶望が爆発した、無差別テロだった。そして、この事件によって山内太一は、一気に賞金ランキングのトップに躍り出た。

「師範、私は行きます」

​ 私は立ち上がった。腰に宿る、あの日の痛みの記憶が、私に力を与えていた。人を殺めるために使われた力は、人を守るために使わなければならない。

​「相手は老いた男かもしれん。だが、その手にはまだ凶器があるかもしれんぞ」

 師範は警告した。

​「武道に老いも若きも関係ありません。そして、私は**『人を殺さない武道』**で、全てを止めます」

​ 私の目的は、一億ではない。山内を殺すことでもない。彼を制止し、将軍の狂った命令が生み出す**「絶望の連鎖」**を断ち切ることだ。

​ 私は道着を固く締め、爆弾犯が潜伏しているとされるアパートへと向かった。私の腰は、今、鉄の芯となって、使命を支えていた。


 順位

 1位 山内 太一 450点 NEW! 婚活会場で手榴弾を使用。無差別殺傷により、信長を抜き去りトップに。


 2位 小田 信長 320点 負傷で活動停止中。


 3位 宗像 先輩 285点 逮捕・失格。


 4位 那須 隆也 190点 逮捕・失格。

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