騒動3 ランジェリーショップ
東武東上線朝霞台駅、急行池袋行の列車に制服姿のジャミトフ飛田は乗車していた。平日の昼間なので通勤ラッシュも無く車内は人が疎らだ。空いている横並びの席のど真ん中に偉そうに腕を組み、どっしりと座り込んでいた。
なぜ池袋行の電車にジャミトフ飛田が乗車しているのか説明しよう。それはアルバイトを終えて帰宅したジャミトフ飛田が胸の痛みを感じた事が発端だ。痛みの原因はどう考えても動く度に立派なパイオツがガン〇ムハンマーのように飛んで行きそうになっていた事だ。そこで天才科学者ジャミトフ飛田は閃いた。
「私の胸が持たん時が来ている、必要なのは重力に引かれたこの胸の救済、アクシズ落とし……いや落としたら駄目だろう……じゃなくて乳バンドが必要なのだ!なぜそれに気付かなかったのか……」
ちなみに乳バンドとは女性用下着のブラジャーの昔の呼び名だが、生前の曾祖母が良く乳バンドと言っていたのでジャミトフ飛田はそう呼んでいた。そしてもう1つ気付いた問題があった。ジャミトフ飛田が寝間着に着替えようと制服のスカートを脱いだ時である。
「こ、これは酷い……」
余りにも酷い格好ににゃ〇ちゅうに似た声が出てしまう。ダ〇ソーの鏡の前に映し出されたのはブリーフを履いた女子高生ジャミトフ飛田の姿であった。想像してみて欲しい、通気口の上に立つマリ〇ン・モンローのスカートが風のいたずらでめくれ上がった時、もしブリーフが見えたら紳士諸君はどう思うだろうか。
一部の異端者を除いて、気持ちがげんなりする事はまず間違いは無いだろう。同じ気持ちになったジャミトフ飛田は寝間着に着替えるとすぐにノートパソコンを起動させグーグルク〇ームで女性用下着とネット検索を行い、女性用下着を専門で販売する店が池袋にあることを発見したのだ。池袋を選定した理由は埼玉県民は池袋、東京都民は新宿、神奈川県民は渋谷と東京の繁華街に訪れる際の住み分けがされていたからである。なぜそうなのかは自然の摂理と似たようなものと考えてもらっていい。
池袋駅は平日の昼間だと言うのに多くの人々が行き交っていた。池袋にはサンシャインシティ以外にも東京芸術劇場や、アニメイト池袋本店などのランドマークとなる建物が多い。サンシャインシティにはナンジャタウンもあって、休日は親子連れや友人同士、恋人達や観光客で賑わっている。
地下の改札から出たジャミトフ飛田がサンシャイン池袋方面の出口に向うのだが、すれ違う度に男達からの視線を感じる。清楚系の可愛い巨乳女子高生が歩いていれば誰もが羨むと思いきや、平日の昼間に何やってんだと見られているだけであった。日本の大人は真っ当な者が多い、ニュースなどに取り上げられるダメな大人が焦点にされるが、これはほんの一部であって大多数の者は真っ当なのは揺るぎない事実である。それを知らずにジャミトフ飛田は得意気な顔になっていた。
人混みを抜け地上出る階段を昇るとビルに設置された大型モニターが見えて来る。道路にはバスとタクシーが何台も行き交い、外国人旅行者も非常に多い、人の波はサンシャイン池袋方面へ続くが、ジャミトフ飛田はその波から逸れて明治通りの北を目指す。
そして目的地のPA〇COの1階へ到着するのだが、元男であるジャミトフ飛田は躊躇してしまう。店の外から見える華やかな女性用下着が色鮮やかに見えるように陳列されているからだ。まるで立ち入ってはならぬ聖域(サンクチュアリ)と言わんばかりに下着達が輝いている。男ならば目を合わせる事も憚れるだろう、というか外からガン見していたら変態と思われても仕方が無い。それが42歳のおっさんともなれば、まず通報案件だ。
だが恐れる事はない、今のジャミトフ飛田は頭脳が残念なおっさん、体は女子高生、装備しているのは制服、ターミネーター2で偶然、体躯の合うバイカー達が遊んでいるBARの近くに転移してきたシュ〇ルツェネッガーと同じで、準備は全て整っている。
そしてここでもジャミトフ飛田は実験をしようと企んでいた。もう三度目なので実験についての説明は省こう。今までは近寄りがたいランジェリーショップを舞台に実験を行えると、ジャミトフ飛田は違った意味で鼻息を荒くして興奮をしていた。
そして入店すると女性店員に向かって早速一発かますジャミトフ飛田。
「たのもうー!」
「えっ……いらっしゃいませ?」
たのもう!とランジェリーショップに入店する女性は確実に世の中には居ないだろう。居たとしたらYOUTUBEのショート動画に上がっている筈だ。面を食らった女性店員が自分の聞き間違いかと考え接客の挨拶が疑問形になっていた。ジャミトフ飛田がラックに掛かっている下着をジロジロと見回し始めるが、女子高生の皮を被ったおっさんの動きそのものだ。
実は勢い良く入ったものの、当たり前だがジャミトフ飛田の女性用下着についての知識はゼロ、42歳のおっさんに知識があったらホラー映画級に怖いだろう。女性店員も言われない限り声を掛けない方針なのか、遠くから見ているだけだ。
これでは埒が明かないと考えたジャミトフ飛田が覚悟を決める。
「そこの君、すまないが……」
「はい、なんでしょうか?」
「ギャルのパンティーおーくれっ!!」
「……」
このおっさんやりやがった。ジャミトフ飛田の調べで全国のおっさんが女子高生になったらまずやりたい事、第一位を迷わずに漫画と同じポーズで言ってのけた。というか現実にランジェリーショップの店員にこの台詞を言う者が居れば、間違いなく天然記念物級の逸材だろう。この言葉を聞いた女性店員が固まっている。ここで『はい、ただいまお持ちしますね!』と返してきたらお前はシェンロンかと突っ込むところだ。
すると店の奥に居たもう1人の店員でジャミトフ飛田より頭一つ背の高い175cmはあろう女が現れると、少し笑いを我慢しながらこちらへ近付いて来る。
「ねえ、それってドラゴン〇ールの豚の子の台詞でしょ?ウチのお父さんが好きで漫画持っててさ私、読んだことあるから知ってるんだよね!」
「ぐはっ!……お、お父さんだと」
思わぬカウンターパンチをもらったジャミトフ飛田が精神的ダメージを受け苦悶の表情を浮かべる。ジェネレーションギャップというのは突然、背中をナイフで刺すようなことをしてくる。背の高い女性店員は見た目は20代と若い、髪は金髪に染め、言葉使いも同年代の友人のように接してくる。接客にはかなり慣れているようだ。
そして固まっている女性店員の肩を優しく叩くと他の客へ向かわせ、代わりに背の高い店員がジャミトフ飛田の対応を始めて行く。
「それで君さ、1人で来たの?親御さんは一緒じゃないの?」
「う、うむ私は1人で来た!」
「へー凄いじゃん、高校生が1人で来るなんて中々ないからさ」
「それ程でもない!」
「あっ私は田中って言うからよろしくね!」
「私は飛田と言う、よろしく頼む」
「飛田ちゃんって言うんだ!スタイルも良いし可愛いねー!」
「き、貴様もな……」
「えーまじまじ?そんな嬉しい事言ってくれちゃうんだ!」
ジャミトフ飛田が田中という店員に終始圧倒される。田中という店員、中々の猛者でジャミトフ飛田の独特な話し方も意に介さずにマイペースで話して来る。簡単な世間話をしていると欲しい商品の話となって行く。
「飛田ちゃんはどんなのが好みなの?」
「こ、好みと言うと……て、Tフロント……」
「ぶふぅ!高校生なのにTフロントってエグ過ぎぃ、飛田ちゃん好みが大人だねー」
ついおっさんの時の好みを素で口走るジャミトフ飛田を田中は優しく冗談として受け流してくれる。やはり女子高生ならば許されるのだ。まあ入店出来た時点で許されているのは分かり切っていたことである。
「好みって聞いたのは形じゃなくて好きなブランドがあるかって事」
「は、初めてでな……良く分かっておらんのだ」
「えっ!初めてなの?……じゃあ自分に合うサイズも知らないんだ」
「フハハハッ!自慢では無いが胸はZを超える自信はあるぞ!刻をこえるものなだけにな!」
「ちょっとZは言い過ぎかなー?でも飛田ちゃんは胸の大きさは気にならないんだね」
「胸の大きさは男のアソコと同じくらい大事な武器!ティターンズのように大きければ大きい程良い!誰が気にするものか!」
「ティターンズ?なんか飛田ちゃんって見た目が可愛いのに発言がすっごいおっさんくさいね……」
ジャミトフ飛田のセクハラ発言に動じない店員田中であるが、その口調からおっさんくささを感じ取っていた。思春期を過ごす学生ならば胸の大きさはコンプレックスとなり得る、その事を田中は気遣っていた。変わった女子高生が来たなと気を取り直し、笑顔でバストサイズの計測を提案する。
「今、時間もあるしバストサイズ測ってあげようか?」
「ふむ……」
この時ジャミトフ飛田は悩んでいた。派手な金髪にサンダルとラフな格好だが顔は可愛く、接客にも悪意が無い田中ではあるが所詮は他人、その他人に自分の胸を見られるのだ。その事を考えると入店するのと同様に再び躊躇してしまう。
だが田中はその道のプロフェショナルである事はジャミトフ飛田も理解している。それに自身の女性下着の知識はドラゴン〇ールのウーロン級しか無い、ならばいっその事、田中に全てを任せてみてはどうか、そう考え始める。
「分かった、貴様に私の全てを託す!バストサイズ測定作戦の実行を認めよう!」
「そんな大袈裟な……じゃあ、こっちのフィッティングルームに来てくれる?」
店の奥には白い扉があってその上には【フィッテイングルーム】という看板が掲げられていた。その扉を開け、ジャミトフ飛田と田中が2人だけで入って行く。可愛い田中と2人だけになった密室空間でジャミトフ飛田は心なしか興奮していた。まだまだ心はおっさんである。田中が部屋の隅の台の上から巻き尺を取ると、ジャミトフ飛田に服を脱ぐように指示を出す。
「じゃあ飛田ちゃん、服を脱いでくれる?」
「むむむ……仕方あるまい、ええい!ままよ!」
「いやいや下は脱がなくていいから!上着だけでいいから!」
上着の制服をストリート〇ァイターⅡのベガの登場のように脱ぎ捨てると、勢いで下のスカートも脱ごうとするのを田中が必死に止める。さきほどバストサイズの測定と言っているのだから、脱ぐのは上着だけで良いに、まるで二日酔いで酔っ払ったまま健康診断を受けたおっさんのような行動をするジャミトフ飛田であった。
気を取り直して田中が測定に入る、バストサイズの測定はアンダーと言われる胸の下部分の胸囲とトップと言われる胸の先端部分の胸囲との差でサイズが分かる。アンダーと言われて下乳の事かと思った者はジャミトフ飛田と同様に反省して頂きたい。
「はい、ちょっと腕を上げてねー」
「フフフッ、お手上げか、まるでシ〇ッコと2人きりになってしまったようだな」
「はいはい、次は90度になるくらいに前に体を傾けてくれる?」
「むっ!こ、これが地球の重力か!……もげる!私のアクシズが地球に落ちてしまう!!」
「はいはい、ちょっと我慢ねー……はい、オッケー!終わり!……でも本当にスタイル良いね飛田ちゃん、足も長いし、腰も細いし、これなら服は何でも似合いそうだね」
「そうか、ならば次はパンティーの試着でもしてみたいものだな」
「いやーちょっとショーツの試着は出来ないかなー」
「えっ?男は解るが、女も駄目なのか?私は風呂にも入って来たぞ」
「お風呂に入ってもダメです……当たり前でしょ、特に下の部分はデリケートな所だし衛生的に嫌がる人も多いし」
「いや、私は一向に構わんが?」
「変態かっ!」
烈〇王みたいな台詞で真顔に答えるジャミトフ飛田に、やっとマイペースであった田中が突っ込みを入れる。当たり前だが下の方の下着の直接の試着は全国共通で出来ないのは常識である。
「それじゃあ飛田ちゃんに合いそうなもの選んで来るから、少し待っててね」
「うむ、貴様の選択に期待している!」
「まったく、偉そうなんだから……」
苦笑いをしながら田中がフィッテイングルームを出て行くと、ジャミトフ飛田は堂々とした姿で椅子に座って待機する。そして1分も経たない内にブラジャーを数枚持った田中が戻って来る。
「お待たせー、それとさ飛田ちゃんブラジャー着けてないみたいだけど、付け方は分かる?」
「……わ、分かっているつもりだ!」
「……じゃあ、試着してみてくれる?私は外に出るからさ」
「ま、待ってくれ!その判断は時期尚早というもの!……仕方あるまい、貴様に特別に私のブラジャーを着ける栄誉を与えよう!」
「最初から素直にそう言えばいいのに、もう」
42歳のおっさんがブラジャーを付けた経験がある訳が無かった。だが分かる?と聞かれると条件反射で知ったかぶりをしてしまうのも、おっさんならではの悲しい反応である。
最後のいっちょうらのブラウスを脱ぎ、前が見えないように田中が背後へ回ると手に持っていたブラジャーをジャミトフ飛田の胸へ装着させて行く。その瞬間ジャストフィットする感触にジャミトフ飛田は小宇宙(コスモ)を感じていた。
「な、何だこれは!まるで聖闘士〇矢の聖衣(クロス)を身にまとったような感じがするぞ!!」
「はい、もうちょっと動かないでね、こうして胸を寄せてっと……」
「感じる……私にも感じるぞ!セブンセンシズを!」
「本当に飛田ちゃんって面白い子だね……ちょっとうるさいけど」
ジャミトフ飛田の脳内にはアニメ聖闘士〇矢のオープニング曲が流れていた。おっさん達が子供の頃に良く見ていた主人公の〇矢に舞い降りる聖衣が次々と装着されているシーン、あれと同じ事がジャミトフ飛田にも起こっていたのだ。そして胸に感じていた重力が和らぐと共に、左右に飛んで行かないしっかりとした安定感を感じていた。まさにジャミトフ飛田の中で革命(レヴォリューション)が起きていた。
「……よし、決めたぞ。貴様の事を黄金聖闘士(ゴールドセイント)のアリエスの田中と呼ぼう」
「ゴールド?アリエス?良く分かんないけどさ、それって褒めているのかな?」
「ああ、私にとって最上級の褒め言葉と受け取ってもらってもいい!」
「ありがとう、そういう反応を見せてもらえると私もやりがいがあるよ!」
嬉しそうな顔を見せる田中に、少しドキッとしてしまうジャミトフ飛田であった。やはり女の笑顔というものは良い、気分を良くしたジャミトフ飛田がこの白を基調とした可愛らしいデザインのブラジャーの購入を決める。田中から付け方を教わり、制服に着替えるとフィッティングルームを出てレジへ向かう。
「では、この聖衣(クロス)をもらおうか!」
「え?1着だけでいいの?もう3着くらいないと不便だと思うけど……」
「……む、むむむ」
男という生き物は見栄っ張りなのだ、買えないとは言えない。レジに表示されていた金額はブラジャーとショーツのセットで8500円、これを見てジャミトフ飛田が糸の解れた折り畳みの黒い財布を握り締め震えていた。予算は1万円、2着目の聖衣(クロス)の購入は不可能であった。
「せ、聖闘士(セイント)の聖衣(クロス)は1着と決まっている……1着だけで良い」
「オッケー!でも足りないなと思ったらまた来てね、サイズが同じでもメーカーによって微妙に違うからさ!」
「うむ、そうさせてもらおう、ちなみに着けて帰る事は可能か?」
「もちろん、試着室もあるからそこで着替えて行きなよ」
レジで値札を外してもらい、田中に教わった通りに聖衣(ブラジャー)を着用する。もちろん購入済みのショーツもその場で履いて行く。これでB.V.Dのブリーフともおさらばだ。
試着室から出て来たジャミトフ飛田の体には黄金に輝くオーラが溢れ出ていた、ように見えていただけで実際は出ていない。その満足そうな顔を店員の田中が嬉しそうな顔でレジから見つめていた。
帰りの急行森林公園行きの電車の車内でジャミトフ飛田は満足していた。曾祖母が言っていた乳バンドのありがたみを身を以って知ったからだ。以前の男であればブラジャーは男に見せるだけの装飾品だと思っていたが、それは思い違いであった。胸を支え、体型を維持、日常生活を過ごしやすいように作られた女にとっての必需品だったのだ。
そして今回の実験の結果は、見た目が女子高生なら許されるが、言動についてはランジェリーショップの店員で黄金聖闘士(ゴールドセイント)のアリエスの田中の懐の広さに助けられた事が大きい。しかしこれも時の運が味方したと判断、勝利とみなし3戦3勝無敗という事に決めた。
東武東上線の朝霞台駅を降りたジャミトフ飛田は帰り道でいつも以上に体を揺さぶりながら、胸の感覚を確かめていた。そして満足そうに自宅へ帰って行った。ちなみにジャミトフ飛田のバストサイズだがトップが3桁のIカップであった。
今回は普通の買い物になってしまった天才科学者ジャミトフ飛田だったが、まだまだ実験は止まらない。
天才科学者ジャミトフ飛田の無敵転生 崖上のベック @SumComi
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