騒動2 コンビニエンスストア

 天才科学者ジャミトフ飛田は今コンビニエンスストアのファ〇マのレジに立っていた。なぜそうなったのか経緯を説明しよう。

 ジャミトフ飛田が愛用しているiPhoneSE(第2世代)のLineにファ〇マの店長から何十件もの連絡が入っていた。可愛い巨乳の女子高生になった事で舞い上がっていたジャミトフ飛田が、アルバイトのシフトに入っていた事を失念していたのだ。ガソリンスタンドからの帰り道でそれに気付いたジャミトフ飛田が慌てて勤務先のファ〇マへ向かったという経緯である。


 ファ〇マの場所は朝霞市を流れる一級河川の黒目川の近くにある。黒目川は川に沿って遊歩道が整備されて夏には川遊びをする家族や釣り人が訪れ、休日には東洋大学朝霞キャンパスへ繋がる橋の下ではバーベキューをしたりと朝霞市民の憩いの場となっている。自然も豊かでカワセミがアオサギなどの野鳥も観察出来るので野鳥ハンターにはお勧めの場所だ。


 そのファ〇マに大遅刻をしてジャミトフ飛田が到着したのだが、出迎えた店長の顔色が妙に輝いている。それもそうであろう、遅刻で焦っていてジャミトフ飛田が女子高生の姿である事をすっかり忘れていたのだ。焦って記憶が飛ぶ事は40代では良くある事だ。


 店長は中年のハゲのデブでジャミトフ飛田と同い年なのだが、同族嫌悪とも言うべきものだろうか、男だった時のジャミトフ飛田に対してきつく当たり、良く嫌味を言っていた。『そんなお腹で移動しにくくないですかぁ?』とか『まじでその年でフリーターとか無いわあ』とか、とにかくジャミトフ飛田をいじめ抜いていた。しかし、女子高生になったジャミトフ飛田に対しては恐ろしく生ぬるい俗物に成り下がっていた。


「で飛田さんの遠い親戚で、代わりに働きに来たって事かな?」


「うむ、その通りだ店長、連絡をしないで申し訳ないと思っている」


「なんか……話し方が飛田さんに似てるけど、まあ、それはそれで可愛いから良いか!」


(こいつ……以前遅刻した時はガン無視してた癖に、よくもぬけぬけと!しかも私の目を見ずに胸ばかり見よって!)


 男の時と対応が違う店長に対してジャミトフ飛田は遅刻をした分際で怒っていた。しかし機嫌の悪い顔も可愛いのか、店長がニタニタとしながらビニールに包まれたSサイズの職場制服をジャミトフ飛田に貸し出す。着替える場所は事務所にあるのだが、監視カメラを映すモニターや業務用PCも置いてあって店長室とも兼ね合いをしている。


 普段は着替える時には部屋に入らないのが暗黙の了解なのだが、店長は出て行こうとせずに部屋に居座ったままだ。着替えているジャミトフ飛田が気になるのであろう、なんとも小賢しい俗物の極みにある男だ。そんな気持ちの悪い事をしているから女性アルバイトが入って来ないのだ。


 こうなったらジャミトフ飛田も黙ってはいない。この職場を実験の舞台にしてやろうと目論む。胸がパツンパツンになった職場の制服姿になって現れると、店長が肩を触りながらレジへと案内する。微妙に頭の近くに鼻を寄せ匂いを嗅いでいるようにも見えるが、今は忍耐の時だジャミトフ飛田。


「じゃあ飛田ちゃんはレジでお客さんの相手をお願いね、僕は後ろの倉庫で飲み物を補充してくるから、何かあったらレジの下のボタンを押して僕を呼んでね、ぐふふ」


「うむ、分かった!とっとと行け!」


 胸の下で腕を組み偉そうな態度で視線を合わせないジャミトフ飛田が店長に返事をする。店長も腕の上に乗ったどっしりとしたパイオツをじっくりと眺めると、前屈みになって飲み物の補充に倉庫へ向かって行った。

 さて、ここからジャミトフ飛田による可愛い女子高生ならどこまで世間に許されるのかという実験が開始される……何度言ってもくだらない内容だが、やっている本人は至って真剣だ。まず第一犠牲者となる男の客が現れる。


ティロティロティローン♪ティロティロリー♪


「えっとーファ〇チキと、肉まん下さい」


「……スマイルはいらないのか?」


「え?袋じゃなくてスマイル?」


 普通はここで袋が必要かどうかを聞くところなのだがジャミトフ飛田がスマイルの押し売りを始める。男は若い青年で、突然スマイルの押し売りに合うとジャミトフ飛田の顔を見つめる。ムスッとした顔をしているが、物凄く可愛い、街で歩いていても滅多に出会えないアイドル級の可愛さだ。その事に気付くと男は悩み始める。


「1回1000円だ、もし断ったら二度と笑わん!というか貴様に対してだけな!」


「えー!なんで俺にだけそんなに厳しいの!しかもスマイル高っ!」


 目の前の女子高生がなぜ自分にだけ厳しいのか理解出来なかったが、これもジャミトフ飛田の実験であって理由は無い。青年は悩んだ、こんなアイドル級の女子高生に微笑んで貰う事など何十年生きても二度とないだろう。指を震わせながら財布から1000円札を取り出しスマイルを買う事を決める。


「わ、分かった!1000円払う!スマイルをくれ!」


「毎度あり!では行くぞ!にこっ♪」


 ジャミトフ飛田が差し出された1000円札を奪い取るように取り上げると思いっ切りの笑顔を見せる。その笑顔は本当に可愛い、全盛期の広末〇子を彷彿とさせる。ノーベル笑顔賞というものがあれば間違いなく受賞しただろう。その笑顔を青年がにんまりとした顔で見つめていると再びジャミトフ飛田の顔がムスッとした顔に戻って行く。


「はい、パパ活終了ー!」


「えー?今のパパ活に入るんだ!自分で売っといてー?!」


「まだやるかい?」


「何そのス〇ックを圧倒してた時の花〇薫みたいな台詞!確かに元気いっぱいになったけどさ!」


 パパ活とは経済的余裕を持つ男性に経済的援助をして貰う事を指すが、女子高生が日常会話で口にする言葉では無い。スマイルの押し売りに遭ったのにパパ活扱いされた青年が釈然としないままに、ファ〇チキと肉まんを買おうとするが、


「ファ〇チキと肉まんだったな?……数が1つ足りないようだが?」


「足りないって何?俺は1つしか頼んでないぞ」


「いや……私の分が入っていない」


「おーい!図々しいにもほどがあんだろうーい!」


「今なら私の分まで購入してくれたらスマイルをサービスしようではないか」


「さっきより金額的に安くなってるぅー!悔しい!……でも買っちゃう!!」


「毎度ありー!にこっ♪」


 ファ〇チキ税込248円、肉まん税込170円、先ほどの1000円よりは遥かに安い。自分のスマイル効果に味をしめて、ちょうどお腹を空かせていたジャミトフ飛田がジャパネットた〇たのようにスマイルの抱き合わせ販売をしたのである。しかし青年はジャミトフスマイルも見れてファ〇チキと肉まんも購入出来た、これは十分に有益な取引だと言わざるを得ない。この結果、可愛い女子高生ならスマイルでパパ活しても許される事が判明する。


 レジの中でファ〇チキを頬張りながらジャミトフ飛田が腹を満たしていると、次に現れたのは作業着を着た中年の男だった。


ティロティロティローン♪ティロティロリー♪


「タバコ、メビウスライト2つ」


「番号で言えヤニカス……もぐもぐ……」


「なっ、何ぃ?」


 ジャミトフ飛田がファ〇チキを頬張りながらムスッとした顔で中年の男へ辛辣な言葉を浴びせる。中年の男も怒りが込み上げて来るが相手は女子高生、周りに客もいれば同じ休憩をしている同僚達も居る。現場仕事の様に怒鳴りつける訳にはいかなかった。

 仕方なく自分の吸うタバコの銘柄を探し始めるが、それをジャミトフ飛田が両手を上げて視界を遮るように動き邪魔をする。


「おい!番号を探してるんだ!邪魔すんじゃねえよ!」


「おっとー若林くん!ヤニカスの番号探しを止めたー!!」


「キャ〇テン翼かよ!懐かしいなおい!というか何でそんな事知ってるんだよ!」


 中年の男が懐かし過ぎてつい突っ込みを入れてしまう。中年の男達が一度は通るファミコン版キャ〇テン翼、若林くんの頼もしさに憧れたものだ。しかしヤニの切れかかった中年の男は諦めない。作業着の胸ポケットから空になったタバコの箱を取り出すとレジの上に置く。


「じゃあこの箱と同じもんをくれよ!これならわかるだろ!」


「もぐもぐ……自分で取れヤニカス」


「レジの中に有って俺は入れねーだろっ!あとヤニカスって言うの止めろ!結構傷付くんだよ!」


 肉まんを頬張りながらジャミトフ飛田が中年の男に自分で取る様に指示する。しかしタバコの値段も上がり、万引きが多いせいで今はレジの中に置くのが当たり前となっている。つまり店員であるジャミトフ飛田しか取る事が出来ないのだ。さすがに中年の男も我慢が出来ずに怒鳴ってしまった。すると同僚や他の客達がひそひそ話を始めて行く。


「やあねえ……女の子に怒鳴るなんて……」


「伊藤さん仕事じゃあ良い人なのに、女子高生に怒鳴るんだ……」


「くっ、くそ……タバコが欲しいだけなのに何で俺が悪者みたいな扱い受けなきゃなんねーんだ」


「フハハハッ、この凡愚が我が策にはまりおって……もぐもぐ……」


 司馬〇みたいな台詞で勝ち誇ったジャミトフ飛田が肉まんを頬張りながら、女子高生である自分の勝利の余韻に浸っていた。すると倉庫から怒鳴り声を聞き付けた店長がレジへ走って来る。中年の男に事情を聞くと、頭を何度もペコペコと下げながらジャミトフ飛田の代わりにタバコをレジに通すと、タバコを手に取った中年男がお金を乱暴に台の上に叩き付け店を出て行く。

 はっきり言ってジャミトフ飛田が悪い。店長もそれとなく注意を始めて行く。


「飛田ちゃん、ちゃんとタバコを売ってくれないとさ、お客さん怒っちゃうよ?」


「ごめんなさい店長、わざとじゃないんです」


「うっほっ、ま、まあいいよ、次からは気を付けてね!」


 ジャミトフ飛田が職場の制服を胸元の谷間が見えるようにわざと開き、両腕で挟み込むように前屈みになると店長から速攻で許される。更に前屈みになった店長が息を荒くして再び倉庫へ向かって行く。それをジャミトフ飛田が顔をにやつかせ見送っていた。


(やはり女子高生……女子高生は全てを解決する……)


 本当はダメな大人にしか通用しないのだが、それを知らないジャミトフ飛田が世間を舐め始めていた。ファ〇チキと肉まんで腹も満たされ、次の客をどう実験してやろうか企んでいると宿敵である客が訪れて来る。


ティロティロティローン♪ティロティロリー♪


(あ、あいつは……五飛クレーマーSサイズ!)


 客は30代くらいの男で上下をビシッとしたスーツに身をつつみネクタイをキュッと締め、しっかりと固めた刈り上げた髪型、ピカピカに磨き上げた革靴、スラっとした体型で如何にも仕事が出来ますという雰囲気を醸し出している。


 一見まともそうに見えるが実はこの男、ジャミトフ飛田がシフトに入っている時間帯を狙って難癖(クレーム)を付けるのが趣味であった。そして難癖を付け満足すると決まってホットコーヒーSサイズを注文して出て行く事から、ジャミトフ飛田は【五飛クレーマーSサイズ】と名付けていた。決して死神の鎌のような武器と腕が伸びるようなガ〇ダムは意識していない事を付け加えておく。


 店に入って来ると早速、男だった時のジャミトフ飛田を探すように見回し始める。しかしそのジャミトフ飛田は女子高生になってレジに立っている。しばらくして標的が居ないのが分かると小さく溜め息を付いた男が、レジに立つジャミトフ飛田に目を付ける。


(こいつめ……いつもの難癖付けてイジメた分、お返ししてやるからな!)


 ジャミトフ飛田42歳、中年男の恨みは納豆の様に粘っこい。スーツの男がレジに向かって来るとホットコーヒーを頼む事無く、ジャミトフ飛田とは知らずに親し気に話しかけて来る。


「君、可愛いね、見かけないけど最近入ったの?」


「その通りだ、何か問題でも?」


「その話し方、変わってるけど似合ってるね!いや問題というかさ、いつもならパッとしないくたびれたおっさんが居るんだけど、今日は見かけないからどうしたのかなって」


「そのおっさんならな……ここに居るぞっ!!」


「へっ?ここに居る?」


 つい感情が抑えきれなかったジャミトフ飛田は三国志の馬岱のような台詞を言ってしまう。その言葉にスーツの男が戸惑っているが、すぐに気にする事無く話を続ける。


「まあ面白い冗談は置いてさ、あのおっさんから君みたいな可愛い子に変わって本当に嬉しいよ」


「そうでございますかー、レジの邪魔なんで地獄に落ちろ」


「はあん……そうそう、この腕時計知ってる?ロレックスのスカイドゥエラーって言ってね、世界をまたにかけて空を飛び回るビジネスマンの為に作られたものなんだよ」


「そんなに空が好きなら大気圏で燃え尽きて塵になれ」


「はあん……そこまで空高くは行かないかな、でも君となら喜んで行くけどね」


 スーツの男が女子高生のジャミトフ飛田に興味を持ってもらおうと試みるが、全て辛辣な言葉で返されてしまう。しかしスーツの男は精神的にタフ……というよりも辛辣な言葉を浴びせる度になぜか頬を赤く染めていた。そして満足したのか、いつもの様に締めのホットコーヒーSサイズを頼んで来る。


「ふぅ……今日は機嫌が悪いみたいだね、今日は諦めるとしてホットコーヒーSサイズを1つ貰おうかな」


(ま、待ってたぜえ!この時をよおー!!)


 この時をジャミトフ飛田は待っていた。レジの台の下に置いてあるSサイズの紙コップを取り出すと、それを両手で持ち自分の口元に近付けると口の中に溜めた唾液を大量に流し込む。


「オエー……っぺ!はい、お待たせしましたーホットコーヒーSサイズですー!」


 この時だけ可愛らしい接客スマイルを見せて、唾液の入ったホットコーヒーのカップをスーツの男へ差し出す。一部始終を見ていたスーツの男は無言のまま動かない。そのようすを笑顔のままジャミトフ飛田は見つめていた。


(そうだ怒れ!怒れ!そして女子高生の私に襲い掛かって刑務所にぶち込まれ、臭い飯を食うのだ!フフフ……ハハハ……ハーッハッハッハ!!)


 勝利を確信したジャミトフ飛田だったが、スーツの男は無言のままにレジに硬貨を置くと精算を終えて唾液の入ったコーヒーカップをコーヒー抽出機へセットする。【Sサイズ】を選択してコーヒーがカップの中へ注がれて行く。やがてコーヒー抽出機の完成したランプが光るとスーツの男が無言のまま取り出し、じっとコーヒーを見つめる。


(な、なんだ……何かようすがおかしい……俯いたままでどんな顔をしているのか、全然分からん)


 レジから覗き込むようにスーツの男のようすを見るが、どんな顔をしているのかが見えなかった。しかしここでスーツの男が驚きの行動を始める。手を腰に当てると風呂上りのコーヒー牛乳を飲むようにゴキュッゴキュッと喉を鳴らしながら、あっつあつの出来立てのホットコーヒーを一気に飲み干して行く。そして飲み終えると恍惚な表情を浮かべ体を震わせていた。


 そのようすを見ていたジャミトフ飛田がドン引きしていた。スーツの男はSでは無くMだったのだ。しかも人目を気にせず実行に移す変態的嗜好も持ち合わせていた。飲み干したカップを店内備え付けのゴミ箱に放り込むと、ジャミトフ飛田の方をちらっと見つめ恐怖の言葉を残す。


「また来るからね……今度はLサイズで頼むよ……フフッ」


(げぇー!何だこれは、全身からさぶいぼが出て来るぞ……)


 スーツの男が満足気に店を出て行く。その言葉を聞いたジャミトフ飛田の全身に悪寒が走っていた。復讐のために唾液を入れた事が逆に相手を喜ばす結果となったのだ。悔しいと思う気持ちよりも、胸糞の悪さが遥かに勝る事案であった。

 自然界でも擬態や偽装をして獲物を捕らえる生物が存在するが、スーツの男もそれに該当すると言っても良いだろう。


 ちなみに朝霞市民の名誉の為に言っておくが、スーツの男は市外から車で来ていた変態である事を伝えておく。


 こうしてファ〇マの仕事を終えたジャミトフ飛田がママチャリの【デロリアン】に乗って帰宅するのだが、誰も居ない夜道を常に振り返りながら逃げる様にアパートへ向かって行った。


 そして今回の実験の結果は、女子高生の唾液なら一部の変態には許される結果となった。精神的には負けたが、実験の結果としては勝利したと判定し2戦2勝無敗。しかしジャミトフ飛田は女子高生になって初めて男に恐怖した。

 負けるな天才科学者ジャミトフ飛田、こんな目に遭っても実験は止まらない。

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