第三章:廃教会と黒い願い



 ミラが立っていたのは、取り壊しも忘れられた廃教会。

 風も音もなく、空気そのものが沈黙している。


 門の鉄柵に結ばれているのは、

 黒く焦げた赤いリボン。


 先輩が、最後まで身につけていたもの。


 「……先輩」


 その呼び方だけが、まだ


 教会の奥。

 天井から、十数個の罪灯が吊り下げられている。


 濁った赤。

 腐った紫。

 そして、祭壇の中央に――


 光を喰らうような、黒。


 伝説級。

 の残骸。


 ミラが一歩踏み出した瞬間。

 罪灯は、音もなく砕けた。


 空間が、凍った。


 「……やっと来たのね、ミラ」


 闇の奥から、歩み出る影。


 オリジナル──

 先輩の姿をした存在。


 瞳は濁り、魂の色を失っていた。


 「どうして……そんな……」


 ミラの声は、祈りのように震えた。


 先輩は、静かに微笑む。


 「世界が壊れるからよ。

  だから、私が抱えた。あなたの代わりに」


 「違う……!

  私なんかのために、そんな──!」


 「あなたは、私の《続き》だから。

  でも……優しすぎる」


 黒い欠片が、ミラのブーツを侵食していく。

 それは冷たさではなく、だった。


 「やめて……!

  私は……また失いたくない……!」


 「大丈夫。

  あなたは、ひとりじゃない」


 先輩は、最後の微笑みを残す。


 「ほら──私の、あげる」


 赤いリボンが、ミラの手の中に落ちた瞬間。

 先輩の身体は、完全に闇へ溶けた。


 「いかないで!!」


 その叫びだけが、空間に残った。

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