第二章:破壊で飾られた聖夜



 新宿は、もうの形をしていなかった。

 黒煙、警告灯、魔獣の咆哮。

 それらすべてが、歪んだイルミネーションのように瞬いていた。


 ビルの屋上に降り立ち、ミラは魔杖を構える。


 「……クリスマスって、ほんと最低」


 赤い魔弾が、夜を切り裂いた。

 爆発。

 悲鳴。

 骨の砕ける音。


 「メリークリスマス。

  地獄でも、聖夜は平等でしょ?」


 魔獣は、崩れ落ちるように消滅した。


 ミラはビルの縁に腰を下ろし、浅く息をついた。

空には星がある。

 けれど、誰も見上げていない。


 人は今日も、恋をして、酔って、裏切って、生きている。

 その裏側で、必ず生まれるものがある。


 ──罪灯つみび


 人が絶望に堕ちたとき、必ず灯る心の残骸。


 ミラは、漂う淡い光を見つめた。


 「……また、ひとつ。

  世界が壊れた」


 耳飾りが震える。

 次の指令。

 それでも、ミラの指は止まっていた。


 「ねえ……先輩。

  どれだけ罪を集めれば、世界は軽くなるの?」


 答える声は、もうない。


 オリジナルのミラ・ノエルは──

 最後の任務で、完全に消えた。


 今ここにいる彼女は、

 ただにすぎない。

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