サンタにならなかったおじさんの話
月兎耳
サンタにならなかったおじさんのはなし
そのおじさんは、おじいさんではありませんでした。
髪も目も黒くて、お髭も生えていませんでした。
けれどそのおじさんはサンタさんになりたいなぁとずっと思っていました。
サンタさんだったらあの子を喜ばせてあげられるのになぁと思っていたのです。
その子は遠い町に住んでいて、寂しい思いをしていました。
お母さんのお仕事が忙しいので、いつもお家で1人きり。
何回も引越しをしていて、お友だちを作るのが苦手でした。
でもおじさんはサンタさんではないので、その子のお家の煙突に入ることはできません。
おじさんは本物のサンタさんに頼んで、サンタさんになる為の特訓をすることにしました。
空飛ぶトナカイのソリ、玩具の作り方、サンタさんの喋り方や、子ども達に出すお手紙の書き方も練習しました。
三角の赤い帽子を被って、ようやくおじさんはサンタさんの見習いになる事ができました。
けれど、1番大事な事を忘れていました。
その子がクリスマスに何を欲しがっているのかわかりません。
でも大丈夫。
サンタさん見習いのおじさんはサンタさんと練習した通り、何が欲しいかたずねるお手紙を出したのです。
「パパとママと一緒にケーキが食べたいです」
お返事にはそう書いてありました。
せっかく練習したのに、玩具はいらないようです。
サンタ見習いのおじさんは、今度はケーキを作る練習を始めました。
クリスマスイブの朝。
あの子が会いたがっていたのは、サンタさんではなかったようです。
おじさんは、赤い帽子をサンタさんに返すことにしました。
本物のサンタさんは、プレゼントをソリに積み込みながら、ホッホッホーと笑いました。
サンタ見習いではなくなったおじさんは、トナカイのソリで空を飛べなくなりました。煙突にも登れなくなりました。
けれど練習したおかげで、おじさんの気持ちはサンタさんのように優しいままでした。
完成したケーキを渡したくて、あの子の家のチャイムを鳴らします。
おじさんは、その子と、お母さんと3人でケーキを食べました。
サンタさんでなくても手紙に書いてあったプレゼントを渡す事ができたのです。
シャンシャンと音を立てて、雪が降って来ました。
サンタにならなかったおじさんの話 月兎耳 @tukitoji0526
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます