テンプレート短編小説「参戦」
チュン
第1話
本当なら人殺しなどせず、国に帰りたい。しかし、それはできない。何故なら、国に召集された今、私は軍人で、戦地に派遣された戦闘員だからだ。
時間は刻々と過ぎていく。私はどうすればいいんだ。とうとう私の所属する部隊も戦闘の最前線に派遣されることになり、敵に向って現実に、実弾を撃ち込まねばならぬ瞬間が近づいて来た。殺さなければ、殺される、様々に考えを巡らせた末に、私の頭に残ったのは、その言葉だった。
周囲が騒ぎはじめた。敵は、距離にして十数キロの地点まで迫っていた。ところが、ここに来て、重大な事実が明らかになった。敵は機械化部隊で、歩兵ばかりの我が隊と比べると、火力において各段の差があった。おまけに、戦線を伸ばし過ぎた我が軍は、補給がままならず、弾薬が不足しているどころか、食料も満足に行き渡らない状況に陥っていた。
部隊の中には、栄養不足から体の抵抗力が低下し、現地の風土病に蝕まれる隊員も増えはじめた。
私は決めた。飢え死にするか、病気で死ぬか、逃げ惑うところを敵に撃たれるか、どれを取っても、自分と言う命に、何の存在意義もないような選択肢しかないのであれば、少しでも、自分が生きて来たという証(あかし)が見出せるようなことがしたい。
そんな折、上官から、夜襲部隊の募集の話が出た。夜襲部隊と言っても、支給されるのは、わずかな弾丸と自爆ための簡易爆弾のみ。要は、夜陰に乗じて敵の拠点に乗り込み、一人でも多くの敵を道連れにして、死んで来い、と言う部隊だった。
だが、私は、それに参加することにした。このままでは敵が祖国に迫るのも時間の問題だ。ならば、それを少しでも先に伸ばすこと、たとえ、そこまで行かずとも、敵が我が国を攻めるなら、それだけ手痛いしっぺ返しがあることを、私の死によって、この世界に刻みつけことができれば、私には本望だと思ったからである。
考えてみれば、私は、ここまで生きて来て、一度も、戦争を望んだこともないし。ささやかだが、軍部にも反発を貫いて来た。そんな、私のこれまでの人生を鑑みるに、私は、どうすれば、良かったのだろう。何をすべき、だっただろう。考えたが、考える時間さえ、私にはもう、残ってはいない。
もし、この戦争の後も、私の国が滅亡せず、続いているようなら、そこに住む人たちに言いたいのだ。同じ過ちを繰り返したくないなら、考えろ。考えて、考えて、考えて、考えろと。
その日の翌々日の深夜2時、有志部隊は夜襲作戦を敢行した。
テンプレート短編小説「参戦」 チュン @thuntyan
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