第10話

「もう夜もだいぶ更けた

今は体力を温存するべきだ、そろそろ眠ろう」


シャリフのアヴィラクス語に対し

オーパルが部族のベイヤム語で尋ねた


「あなたは明日、ここから旅立つのね」

シャリフがびくりと身を震わせる


「いつもならあなたが村に帰って来た日は

太陽がまた昇るまで話をしているところですもの

そう、そしてまた私を置いていく気なのでしょ?」


「大切な君を暴力に晒せと?」


「もうどこにも安全な場所なんて残っていない

どうせどこにいても危険なら私はあなたの傍にいる」


「君はアヴィラクスの王女だぞ」


ええとオーパルは頷いた


「そうね、王政と軍との内戦の真っただ中で国中は大混乱

そのとばっちりで王位継承者が暗殺され続け

遂には旅途中で出会った部族と結婚し放蕩息子と有名だった

父のような末っ子にまで王位が回ってくるくらい

そこへ同時に漁夫の利をたんたんと狙う隣国たちからの侵略も

視野に入れなければならない政治情勢

そんなアヴィラクスの実情は

いつ滅びてもおかしくのない小国」

だからねとオーパルは笑いかける


「そのちっぽけな王女の地位が

交渉の材料になれるのなら私は喜んでやるわ」


あああ君はやると決めたらやり通すからなと

大きなため息がもれてシャリフは頭を掻きむしる


「僕がこれから行くのは暴力にまみれてる

そんなしなくていい苦労はするべきじゃない」


「それならこう言い換えたらいいのかしら

アヴィラクス第一王女の命により

あなたは私をその旅へ同行させなければならない」

確かあなたは父と約束したことがあったわよねと

勝ち誇ったようなオーパルと

地面に膝をつくシャリフ

そこへ無邪気な声が響く


「姫さん今、旅って言ったか?

他は言ってることなーんにも分からんが

皆でどっか行くのか?

そんならオラも行くダ」


大事な姫さんを守るダとケーリスは貧弱な胸を張った


「え?」

「は?」

2人は顔を見合わせた


「とにかく今はもう眠ろう」

その焦ったような言葉の後ろからはこれまで聞いたこともない

奇妙なリズムの音階が聞こえるような気がした


「ああ眠くなってきたダ」


オーパルもくらくらとするような眠気に襲われ

ふらりと硬い地面に横たわった

回るような視界の中

シャリフだけがそこへ立ち尽くし

オーパルが眠りに落ちるのを見つめていた


「私を、やっぱり置いていくつもり?」


それだけ言ってオーパルはその大きな眼を閉じた


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