第9話
「大丈夫なんて言えない。けれど私は傍にいる」
忘れないでとオーパルがシャリフの顔を覗き込む
ゆらゆらと心もとなく揺れる炎が少しだけ和らいだ表情を照らす
遠くではフクロウがほうほうと穏やかな時を告げる
「私たちは違う人間だって分かってるけど
まるで同じに見える時もあるの」
何か言いかけて止めたシャリフの唇をオーパルは見つめていた
静かに緩やかに
2人の顔が近づいてゆく
「痛えええエ」
すっとんきょうな声と共にがりっと岩の外れる音がして
何者かが洞窟内へ文字通り、転がり込んだ
2人はぱっと離れた
流血する片腕を押さえ痛みに顔を顰めているのは
先ほどの兵士だった
「あっ姫さん」良かったア生きてたナと
痛さと嬉しさの半々に混じったような
人懐っこい笑顔を見せた
「見せてごらん」
シャリフは流暢なアヴィラクス語を操りながら
立ち上がり、兵士の傍へと駆け寄った
「シャリフ、そいつは敵よ」
「でもケガしてる。放っておいたら悪化するだろう
それにこの兵士はさっきの戦いでは武器を使用してないはずだ
使ってたら即、自分に跳ね返ってくるはずだからね」
いてえよウとありがとよウと交互に叫び続ける兵士に
オーパルは不満げな視線を送る
「信じられない。
こいつ、さっきまで私のおばあちゃんを苛めてた癖に」
オーパルのその冷ややかな視線に
兵士は気づいてもいないのか
嬉しそうにシャリフを見上げる
シャリフはまず自らのシャツを破き
それから慣れた手つきで傷口をきれいにしてから軟膏をすりこんだ
左腕に添え木を当てそれを巻く
するすると三角巾を作り兵士の首へとかけた
これで応急措置は終わり
後は医療所で診てもらってとシャリフが簡潔に告げる
「あんた、すげえなア」
兵士はシャリフに握手を求め
その手をぶんぶんと振り回した
「オラ、ケーリス」
アヴィラクスからここへ来て一年ほどになるかなと
誰に尋ねられたわけでもないのに語り出した
「ここはえーエところだ、オラの田舎と比べたらまるで天国だテ
麦があんたに沢山揺れてるところも
どでかい牛みたいな群れもオラ
こっち来てから初めて見たんだス」
あらたまげたたまげたと笑うケーリスに
オーパルは眉間の皺を深くする
「ここは私たちの土地よ
あなたたちのような侵略者のための土地ではないわ」
「あらら姫さんはオラ達の味方でねえのケ」
ケーリスは不思議な顔をして
オーパルはぐっと言い淀んだ
シャリフだけがいつもの穏やかな笑みを浮かべている
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