第2話

刺す日差しとは対照的に

テントの中は柔らかな午後の光に満ちていた

延々と続く宴の歌声も遠くに響いている

広々とした中でひと際目を引くのはどっしりと光沢を放つ机

そこには幾層にも連なる手紙の束と

無造作に置かれた弓矢

きちんと畳まれた古いジャケットが置かれていた


懐かし気にそれらを見渡す男の顔にも四肢にも

切り傷、打撲が無数にあった


「また傷が増えてる。自分で治せるはずでしょ」


その軽く睨むような表情に慌てた様子の男は

少し赤く焼けた肌の細長い体を小さくして

口の中でもごもごと弁解をする


「だってそんなに深い傷でもないし、こんなことに力を費やすのもムダだし」


「パレードに費やす力はムダじゃなくって自分を治すのはムダ?」


男の開いた手のひらに

彼女はこれいつもの膏薬と言って小さな貝殻を握らせた

豊かな赤い髪の毛がその動きと一緒にふわりと揺れた

男は嬉しそうにそれを見つめる


「じゃあこれはそのお礼」


懐からしゃらりと音がして

取り出した時には小さな塊だったものが女の目の前で左右に細長く揺れた

深い翠の大きな目がぱっと輝いた


「ネックレス?あなた、この村の風習知ってのこと?」


「あと9束のこと?多分ね。でももしかしたら、これは単なるお礼かもしれない」


男は緩やかな動作で少女の背後に回り

その赤い髪を持ち上げる


「一体どっちなのよ?」

その声は弾んでいる


「さあね。それに交互に贈らないと成立しないかもしれないし」


赤い髪より更に朱の差した頬が出来上がった


「それより、僕がここに居た頃に比べたら

随分、手紙の束も厚くなってるようだね」


「あなたがこの村を離れてそれくらい経つって言うこと

毎月必ず父からの手紙は届くけれど、数か月遅れだから

こっちが暑い時にあっちはまだ寒かったりするけど」


「あちらではお父上が統治に随分頑張っている様子だね」


「国中が混乱の真っただ中だもの

出来ることはやってるって書いてあるわ

後は大祖母様の料理が恋しいとか

この村で好きに駆け回ってた日々が懐かしいとかいうのを

ツラツラ書いてるだけよ」


他に吐き出せる人はいないみたい

母がいたらまた違っていたんでしょうけど

そう言いながら

その視線は赤黒い血の残酷に残る古いジャケットへと落ちた


「だから、あいつらだけは許せない」











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