きっと、誰だってやれるはず
- ★★★ Excellent!!!
三十五歳、非戦闘系スキル、仲間に切り捨てられ、満身創痍で生き延びる日々……
『最弱転生もの』の類型ではありますが、この作品の導入部には、『切実でリアルな人の痛み』があります。
若者ではなく、一度人生に敗れ、社会システムに『無価値』の烙印を押された男を主人公に据えたことで生じていく、『他人』や『格差』に対する『普通』という大多数が経験しているはずの、『努力』が陽の目を見ないという『可視化されない痛み』への鋭い問題提起。
この社会において、一体、仲間という存在とは?
その疑問に対するアンサーが、相棒となる黒猫クロの存在なのでしょう。クロは単なる愛玩動物でも、便利なチート装置でもありません。
天使と悪魔を封じた『第十の祝福者』という合目的な存在でありながらも、どこか不思議と、主人公の実存と噛み合うような存在なのです。
"「力を失い、語ることすら封じられた」という枷を背負いながら、それでも誇りを失わず、主人公に「首輪などつけん(=飼い慣らされるなよ)」と発破をかける。"
この作品に流れているのは、『努力は裏切らない』という甘い言葉ではなく、『努力を続けられる人間だけが、裏切られない』というとても誠実な哲学です。
理不尽な評価や、生まれ持ったスペックだけで断定される現代社会。
『今』という閉塞感の中で、泥水をすすってでも『基礎』を積み上げて、魂の格で格上にさえ立ち向かっていくソラの姿は、きっと我々読者にカタルシスを与えてくれるはずです。
復讐譚であるようでいて、同時にこれは、『大多数』に殺されかけた存在による、『自尊心』の物語。
静かで、切実で、しかし芯には情熱がある。
だからこそ、何かに負けそうな人に読んでほしい。
そんな誠実なメッセージを感じました。