卵で産みたい
ゆかり
創造主、ドム
「ドム」は神であった。
地球を作り、生命を誕生させ、その生命に多彩な特性と役割を与えてきた。
そのドムが今、頭を抱えて唸っている。
何度作り直しても世界は、いや人間達は、戦争を繰り返し自ら愛と調和を放棄するのだ。
では、知的生命体の頂点を人間以外に設定してみてはどうだろう? そう考えて何通りか試してみたものの、上手くいかない。団体行動が生まれ、社会を形成し、命の維持に必要なインフラを整えるあたりまでは発展するのだが、何故か芸術が生まれない。娯楽も進化しない。
「やはり人間じゃないとダメだな」
地球の神はドムだが、この宇宙自体はドムが生まれる以前から既にあった。幾多の知恵者が集まって創造されたらしいが、神であるドムにとっても、はるかに想像の及ばない更なる高みの神々による御業であった。
その際に宇宙の理も定められたという。その理がドムにも解れば、もう少し効率的に理想の世界を創れるはずなのだが、それを知る術はない。ただ試行錯誤を繰り返すのみ。
「つまり、争いのもとは生活苦、不平等感、圧制、嫉妬、妬み、といったところか……」
そこでドムは、なるべく不平等感のない世界を作り上げてみた。個々の性格、容姿、知能までをも平等にするわけにはいかなかったが、生活物資や食料に不自由のない世界を創ることで、戦争にまで至るほどの嫉妬や妬みを生み出さないようにしてみた。
ところがどうだろう。ある者は無気力になり、またある者は極端な利己主義に走り、社会全体の生産性は落ち文化の発展も頭打ち。争いこそ減ったものの、人口も減少の一途をたどり始めた。
「駄目だ。これじゃあ人間そのものが消滅してしまう」
じっと目を閉じ、考え込むドム。
「人口減少を食い止めるには……うん、卵だな。あと、争いを防ぐには互いへの愛と敬意。それをはぐくむ教育! これだな」
考え抜いた末、ドムは人間の誕生の方法を変えた。歴史上のある地点から人間も卵から生まれるように変えたのだ。これは宇宙の理に反していなかったらしく変更は叶った。
「卵で産みたい」
あるチャーミングな女優が妊娠発表の記者会見でそう言った。それを聞いた女優のファンが一念発起し人間も卵で産める方法を発見——ドムはそんなシナリオを用意した。
やや強引だが、なにしろドムは創造主である。この程度は許される。
更にドムは少しづつ歴史の流れに介入し、ついには『卵は全て地球政府が管理し、親の能力に左右されることなく等しく同じ環境で生まれ育て教育を施す』こととした。
「さあ、これでどうだ。これなら今度こそ上手くいくよな」
手ごたえを感じたドムは安堵して少し眠った。
さて、仮眠から目覚めたドムは地球の様子をみて愕然とした。卵の扱いを巡り反対勢力が誕生しているではないか。しかも地球政府を脅かすほどの一大勢力にまで膨れ上がっている。
「なんでだよお」
半ベソの神は、夏休みに入って10日目の朝、五回目の『ハルマゲドン』を発動した。
「これ、ムリゲーだろ。小六になんちゅう課題出すんだよ、まったく」
愚痴を言いながらも、ゲーム感覚のこの課題にドムは結構夢中だ。
「ドムー。起きてる? もうすぐ朝ごはんだけど……卵はどうする? 目玉焼き? それとも……」
「卵焼きにしてー。甘いやつねっ」
階下からの母親の声に神は元気に返事をした。
卵で産みたい ゆかり @Biwanohotori
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