第2話
乾いた土から芋を引き抜いた農夫は、その出来栄えを見て深く溜め息をついた。
「ああ、今季も良くない」
畑には黄色く枯れかけた芋の葉や茎が広がっていて、収穫を待っている状態だ。
本来はこの状態の茎を引き抜けば、丸々太った芋が五つから六つは付いているところが、農夫が今持ち上げた茎には、小振りなものが四つしか付いていない。
近年、どこの地域でもこうした不作続きで、国中で食料不足の心配が増している。
「去年の冬は極寒、今年の夏はやけに雨が少なかった。一体、いつになったら元の穏やかな季節が戻ってくるのか」
ボヤいた父が、空の籠に芋を放った。
ヘルムはツバの広い帽子を持ち上げて、空を見上げた。
一見穏やかに見える薄い水色の空には、所々煤けたような鈍色が滲む。
それは遠く中央工場から立ち昇る黒煙が原因で、強風の影響で西方の
子どもの頃に見上げた空は、こうではなかった。
澄んだ濃青に明るく太陽が輝き、からりとした風が楽し気な鳥の声を運んで来ていた。
見上げるだけで、駆け出したいような気持ちになったものだ。
しかし今はどうだ。
陽光を翳らせるこの色は、漠然とした不安を呼ぶ。
まるで、もうあの日の空は戻ってこないと言われているように思えた。
星読術師の予想では、たまたまここ数年に気候変動の底が当たっただけで、今後は徐々に元の気候に戻るというが、本当だろうか。
王が国中から集めた有識者や技術者達は、多くの対策を練っては実行に移しているらしいが、今のところ効果があったという話は聞こえてこない。
いや、ひとつだけ。
もう五年も前になるが、中央で高活力体を土壌の改良に役立てるという試みが行われた。
それによって、一時的に多くの収穫を得ることが出来たというが、それもすぐに効果を失ったらしい。
ただ、あの一度きりだ。
上手くいったのに続けて行わないということは、その話自体が眉唾ものであったのか、それとも、偶然上手くいって、繰り返し行うことが出来ないのか。
どちらにせよ、今すぐに状況を変えられるような手段はないのだろう。
秋だというのに、生暖かい風がヘルムの短い黒髪を揺らす。
数羽の鳥が高く西へ飛んで行った。
森の向こう、壁のように聳える山脈へと帰って行くのだろうか。
かつては美しく見えた夕景も、今はくすんでいる。
どことなく落ち着かない気持ちを打ち消すように、ヘルムは軽く頭を振って籠を背負い直した。
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