エピローグ「銀色の髪に祝福を」
あれから、五年が経った。
ヴァレンティン公爵領は、かつてないほどの繁栄を謳歌していた。
俺が導入した農業改革は領内全土に広まり、安定した食料供給を実現した。
さらに、開発した特産品は他国との交易の目玉となり、公爵家の財政は潤い領民たちの暮らしは豊かになった。
そして、その中心には常に公爵であるラッセルと、その伴侶である俺がいた。
「レオン、見ろ。今年も豊作だ」
黄金色に輝く麦畑を見下ろす丘の上で、ラッセルが俺の肩を抱きながら言った。
五年の月日は、彼をさらに洗練された威厳のある当主へと成長させていた。
だが、俺に向けるその眼差しだけは昔と少しも変わらず、深い愛情に満ちている。
「ああ。みんなが頑張ったからだな、ラス」
俺も、すっかりその愛称で彼を呼ぶことに慣れていた。
俺たちの関係も、穏やかで満ち足りたものだった。
時折、彼が執務室で根を詰めすぎていると、俺が夜食を持って行って無理やり休ませる。
逆に、俺が新しい領地改革の案に夢中になっていると、彼が「少しは私のことも構え」と拗ねてみせる。
主従だった頃には考えられなかった、対等で甘やかな日々。
それが、俺たちの日常だった。
そんな俺たちの間には、三年前、新しい家族が増えていた。
「父様!見てください!」
丘の下から、元気な声が聞こえる。
声のする方を見ると、小さな男の子がこちらに向かって一生懸命に手を振っていた。
銀色の髪と、紫紺の瞳。
ラッセルにそっくりなその子は、俺たちの子、エミリオだ。
Ωである俺が、ラッセルの子を身ごもったのは奇跡のような出来事だった。
エミリオが生まれた日、ラッセルは俺の手を握りしめ、ただ「ありがとう」と繰り返しながら静かに涙を流していた。
「エミリオ、危ないから走るな!」
俺が声をかけると、エミリオはへらりと笑ってこてんと麦畑の中に転がった。
すぐにむくりと起き上がり、服についた土を払って、こちらへ駆け寄ってくる。
その元気な姿に、俺もラッセルも思わず笑みをこぼした。
エミリオは、αでもΩでもないβとして生を受けた。
それが、俺たちにとっては、何よりの喜びだった。
性に縛られることなく、彼自身の力で自由に生きていってほしい。
そう願っていたからだ。
「お前は、本当に強い子だな」
俺の腕の中に飛び込んできたエミリオの頭を、ラッセルが優しく撫でる。
「大きくなったら、父様みたいに、レオン父様を守るんだ!」
エミリオは、胸を張ってそう言った。
その言葉に、俺とラッセルは顔を見合わせてまた笑った。
かつて、俺はラッセルを守ることだけが生き甲斐だった。
そして、立場が逆転し彼に守られるようになった。
今は、二人でこの子を、そしてこの領地を守っている。
運命は、時に残酷な試練を与える。
だが、それを乗り越えた先にはこんなにも温かく、幸せな未来が待っていることを俺は知っている。
夕日が、黄金色の麦畑と俺たち家族を優しく照らし出していた。
俺は、愛する夫と愛する息子の手を、強く握りしめた。
この幸せが、永遠に続きますように。
銀色に輝く三つの髪が、穏やかな風に吹かれて優しく揺れていた。
βの俺がΩに分化したら、病弱なはずのαの主君の本性が覚醒。執着と溺愛で主従が逆転しました 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi
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