第11話 シーソーゲーム
会社の昼休み。
愛は、いつものように明日香と並んで座っていた。
「昨日さ!」
少し身を乗り出して、
声を弾ませる。
「ウエディングドレス見たんだけど、
めちゃくちゃ綺麗だった!」
にやけた表情を、
隠そうともしない。
「お?
ついに結婚ですか?」
明日香が、
茶目っ気たっぷりに返す。
「こっちにも、
幸せのお裾分けくださいよー」
「もうね、ほんとに綺麗で」
愛は、
その言葉を受けてさらに続ける。
「静也もさ、
『愛ならなんでも似合う』って
言ってくれて」
その瞬間、
愛の顔は、
完全に幸福に満ちていた。
「はいはい。
ご馳走様です」
明日香は、
慣れた調子で笑う。
「式には呼んでね」
「もちろん!」
愛は、
疑いもなくうなずいた。
未来は、
もう話題にしていいものになっていた。
⸻
一方で。
静也は、
黙々と仕事をこなしていた。
画面に映るコード。
意味は分かる。
指も動く。
それでも、
キーボードを打つ手は、
どこか重かった。
(愛と、どうなりたいんだろう)
ふと、
そんな考えが浮かぶ。
愛のことは、嫌いではない。
一緒にいる時間も、
苦痛ではない。
でも。
将来。
結婚。
その先。
どれだけ考えようとしても、
像を結ぶことはなかった。
(分からない)
それが、
正直な答えだった。
理由も、
きっかけも、
見つからない。
ただ、
想像できない。
静也は、
キーボードに視線を戻し、
再び指を動かした。
仕事は、
問題なく進んでいく。
ただ、
自分の未来だけが、
空白のままだった。
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