第6話 シーソーゲーム
前日の疲れを引きずりながらも、
愛は出勤した。
「はぁ……昨日は疲れた」
受付で書類を整えながら、
思わず漏れる。
「本当に疲れたよねー。
でも、なんとか間に合ってよかったね!」
明日香が、明るく返す。
その言葉に、
愛は小さくうなずいた。
「ねえ、彼氏さん、心配してた?」
少し声を落として、
明日香が聞いてくる。
「え?
うん。普通だった」
愛は淡々と答えた。
それ以上、
何も付け足さない。
昨日の夜のことが、
頭をよぎる。
――連絡しなかったこと。
――少し強い言い方をしたこと。
胸の奥に、
小さな引っかかりが残っていた。
心配をかけたのは、事実だ。
それは、否定できない。
でも、仕事だったし。
仕方なかったよね。
そう思いながらも、
罪悪感は完全には消えなかった。
その時、
ふと、思いつく。
(そうだ)
(今日は、静也の好きなビーフシチューを作ろう)
あの人は、
ああいうのが好きだ。
時間をかけて煮込んだもの。
手間のかかる料理。
――きっと、喜ぶ。
それでいい。
それで、帳尻は合う。
仕事を終えたあと、
愛はそのままスーパーに寄った。
人参、玉ねぎ、じゃがいも。
牛肉は、少しだけいいものを選ぶ。
レジに並びながら、
頭の中で段取りを考える。
今日は、
ちゃんとした“夜”にしよう。
静也の帰宅時間を思い浮かべながら、
愛は袋を提げて、家へ向かった。
自分が何を埋めようとしているのか、
愛は、まだ言葉にしていなかった。
ただ、
これで大丈夫
そう思いたかっただけだった
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