第3話 転移者のおっさんジョー




  おっさん視点――――



 「私の従者になりなさい。」


 いきなりですな、何なんだろう?


 そう言われたが、俺は逡巡し答えを返す。


 「お断りしますよ、何だって俺みたいな中年おっさんを?」


 普通に考えて騎士が従者を連れ歩くのは分かる、この騎士も今は一人らしい。


 見た目からして女性と解るが、今の戦いで分かる。


 この人は強い、一人でもやっていけそうな雰囲気だ。


 俺が先程石を投擲して倒したモンスターは、一番弱いフット系だ。


 俺のゲーム知識を総動員しても、今回の遭遇戦は彼女にとってたわいが無かった筈だ。


 俺は辺りを見回し、森の中の様子を窺う。


 やはりアローフットの気配は無い、どうやら倒したようだ。よかった。


 そして、目の前の女騎士、兜を被っているから分からないが多分美人。


 美しくて透き通る様な声をしていた、優しい雰囲気を醸し出している。


 美人と会話するのは、やはり緊張してしまうよ。


 「なぜ? 私の従者では不服かしら?」


 「俺は貴女の事を良く知らないし、騎士という事は何となく分かりますけど。」


 見た目で判断しただけだが、何処かの国の騎士だと思う。


 「そう言えば、自己紹介がまだだったわね、私はエメラルド。御覧の通りの女騎士よ。」


 エメラルドさんね、宝石みたいな名前だなと思う。では俺も。


 「俺は、もり………。」


 「? モリ?」


 「いや、すまない、俺はジョーだ。」


 俺の名前は森川もりかわ じょう、だが、この異世界ではジョーと名乗った方が「らしい」だろう。


 「ではジョー。何故私の従者になった方が良いのか、説明しましょうか?」


 なった方が良い? どういう意味だろうか?


 「何となく察しは付くけど、教えて欲しいです。何故でしょうか?」


 二つほど理由は分かるが、さて、どういう事であろうか。


 俺が身構えていると、エメラルドさんはニコリっと笑顔を見せた。


 「まず一つは、今のジョーはまだ賊の一味扱いという事。そして私を襲った賊の仲間と思われている事。」


 やはりそう来たか、まあぐうの音も出ない。


 「ああ、その事は素直に謝罪します。本当にすいませんでした。」


 俺はそう言って頭を下げた、そして間髪入れずに言い訳を言う。


 「だが誤解しないで欲しい、俺は奴にそそのかされてついて来ただけなんだ。」


 「そそのかされた?」


 「その通り、俺は金が無くて、つい奴の口車に乗っちまった。許してほしい。」


 エメラルドさんは思案気に顎に手を添え、考え込んでいる。そして口を開いた。


 「分かりました、私を襲った事への罪は、私と魔物討伐の共闘をした事で不問にします。」


 ほ、良かった。話せば分かる人の様だ、エメラルドさんは。


 「ですが、それは私個人がジョーを許しただけです。このままでは何も変わりませんよ?」


 「と、言うと?」


 「私を襲った賊たちと行動を共にした、この事実は無くなりません。」


 そりゃまあ、確かに奴等と行動を共にしたが、女に危害は加えないという仕事内容が違ったから辞めたんだけどね。


 「どうすれば良いんで?」


 「簡単です、私が貴方を監視するのです。もう悪さしない様に、ね。」


 ふーむ、俺の事をまだ信用していないって事だろう。


 「それで俺を貴女の従者に?」


 「そう言う事です、ジョーの身柄を私が預かる事で貴方の身分を保証出来ますし、私自身の護衛役として、貴方は先程の戦いで十分通用するレベルだと判断しました。」


 ほほう、中々気に入られてしまったか。まあ俺としてはこの人の従者になる事は悪く無いと思う。


 どうする、やってみるか?


 「従者って、騎士のですよね。俺よく知らないけど、それでも良いんですか?」


 「構いません、少しずつ学んでいけば良いのです。」


 俺の身柄を保護する事で、エメラルドさんは俺を監視できる。


 従者として、護衛役として、俺は彼女のお眼鏡に叶ったという訳か。


 美人の女性に誘われると、悪い気はしない。つい鼻の下がのびる。


 「分かりました、まずはお試しって事で俺はエメラルドさんの従者になります。その方が俺にとっても有意義だと思えるし。」


 「お試しですか。賢明な判断です、これからよろしく頼みます。ジョー。」


 「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。エメラルドさん。」


 俺はエメラルドさんと、がっしりと握手を交わした。


 俺はライトゲーマーだった、日本からの転移者。俺のゲーム知識がどこまで通用するか。


 試してみる価値はある筈だ、自分が何故、ここへ転移してきたのかを。


 おっさんは今日も何とか生きているよ。



  女騎士視点――――



 「よし! これで当分の言い訳が確保出来たわ。」


 「何か?」


 「いいえ、こちらの事よ。」


 危ない危ない、まだこの人の事を信用するには早すぎるわね。


 もっと慎重に行動せねば。言動にもね。


 私にはもう、後が無いんだから。ここで失敗する事は許されないわよ。


 「さて、これからどうしましょうか?」


 ジョーが聞いて来たので、今後の方針と、これからの行動計画を話そうと思う。


 だが、その前に。


 「そうね、まずは貴方の素性を教えて頂けないかしら?」


 私が言うと、男は「そう言えば」とか言いだして、自己紹介を始める。


 私から先に名乗ったのだから、礼儀は間違ってはいない筈。


 「俺の名はジョー、素性というか、何と言うか、まあ、遠く離れた異国からやって来たと思ってくれれば良い。」


 「ん? 歯切れが悪いわね、何か隠してる?」


 ジョーは特に慌てる事も無く、平気な態度を崩さす、更に答える。


 「二ホンから来た、と言っても信じないだろう? そういう国から来たんだよ。俺は。」


 二ホン? 聞いた事が無い国名ね、まだ発見されていない土地の出自という事かしら?


 「二ホンですか、一応了解しました。ではジョー、今後の目的を話します。」


 私が真剣に話を進めようとしているのを察知してか、ジョーも聞く姿勢を執る。


 私の話を要約すると、ここ最近、この先にある村の治安が悪く、調査の為私が派遣された。


 私は王国騎士の端くれだが、「ある事情」により、お金を稼がなくてはならない。


 そこで目を付けたのが、冒険者だ。冒険者は一攫千金が狙えるという事を町人から聞いて、私も冒険者ギルドに登録した。で、今回の騎士団長からの依頼、「村を調査せよ」という依頼を引き受けた次第。元々は領主絡みの案件だし。


 まあ、結局のところ、私がここへ来る事を知っていたか調べたか、賊が妨害してきたのを軽くいなし、村が悪党の根城になっている事を確認。


 よって、これから調査目的で、村へ侵入する事になった。


 とにかく、情報が欲しい。村の人々が何に怯えているのか、どういった問題があるのか、根城にしている賊の情報など、何でもいい。


 その為にも、女騎士である私よりも、この男、ジョーの方が情報を集め易いのではないかと思い至った。


 村へ行く道すがら、ジョーから聞いた話はこうだ。


 あの村人たちはみな親切、門番もジョーを無条件で入れてくれたらしい。


 ここで私は疑問に思う、普通門番は不審者を町や村の中へは通さない。


 ジョーはまだ身分証などを持ってはいなかった。


 ジョーという人間を見れば、信用出来る人物かもしれないが、それとこれとは別問題だ。


 「まず、その門番が怪しいわね。」


 「門番か? 確かに顔はモンスターみたいな奴だったが、それを言うのは失礼だろう?」


 「世の中には、魔物が人に化けて潜入しているケースもあるの。用心に越した事は無い。」


 「モンスターって、頭使うんだ。知らなかった。」


 「勿論、力押しで来る魔物が殆どね、その中でも知力のある魔物が色々と画策しているって話ですよ。」


 「へーえ、そんなもんか。」


 うーん、どうもこのジョーという御人、どこか抜けているわね。大丈夫かしら。


 こうして、私達は問題の村まで歩みを進めるのだった。


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女騎士とおっさん従者 愛自 好吾(旧月見ひろっさん) @1643

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